2018年03月09日 1517号

【全労働者を定額働かせ放題 裁量労働制やめろ】

 安倍政権の「働き方改革」と称した裁量労働制拡大に批判が集中している。捏造データに基づく法案など提出の資格はない(8面参照)。そもそも裁量労働制とは何か、長時間労働必至となる実態はどのようなものか、なぜ安倍首相や加藤厚労相が「働き方改革」法案に執着するのかをみてみよう。

無制限のサービス残業

 労働基準法で定められた労働時間は実労働時間によって算定するのが原則である。しかし1987年の労基法改定により、「業務の遂行方法が大幅に労働者の裁量に委ねられる」とされる一定の業務につく労働者について、労働時間の計算を実労働時間ではなく「みなし時間」によって行うことを認めた。当時はシステムエンジニアなどの専門職にのみ適用されるものだった。

 98年の法改定により、経営の中枢部門で企画・立案・調査・分析業務に従事するホワイトカラー労働者を適用対象とする新たな制度が作られた。

 現在、前者の制度は「専門業務型裁量労働制」と呼ばれ、後者は「企画業務型裁量労働制」と呼ばれている。

 裁量労働制とは何か。1日あたりの「みなし労働時間」を職場ごとに労使で定めることで、何時間働こうが、その「みなし労働時間」しか働いたことにならない制度だ。制度上は、「みなし時間」分働かずとも、仕事が終わったら早く帰ることができるはずである。しかし、労働者に与えられた裁量権は、「業務の遂行方法」にしかない。職場で上司から命じられる仕事の量に裁量権はない。従って、この制度は悪用され、「定額働かせ放題」制度として、無制限のサービス残業を強いる事例が後を絶たない。

 厚生労働省は毎年、過労死・過労うつの労災認定の数を公表している。2017年以降、そのうちの裁量労働制の数も公表するようになった。裁量労働制では企業に労働時間管理が義務付けられていないため、労災認定は極めて困難で数字は氷山の一角に過ぎない。それでも、11〜16年の6年間で認定61件、うち死亡・自死者数が11人に上る。

「みなし時間」大幅超過

 厚労省「2013年度労働時間等総合調査結果」から、実態の一端がわかる。対象は1万1575事業所で、裁量労働制の1日の「みなし労働時間」を7時間、7時間超〜8時間以下、8時間超〜9時間以下、9時間超〜10時間以下、10時間超の5つに分類。企画業務型裁量労働制で働く労働者について、各事業所で平均的な者、最も長時間だった者の数をパーセント表示した(表)。



 1日の「みなし労働時間」が8時間以下の労働者は半数を超える。しかし、その平均的な者の実労働時間を見ると、8時間以下で帰れているのは19・1%、5人に1人だけだ。1日10時間以上の「みなし労働時間」を適用されている労働者は0・1%しかいないが、その平均的な者の31・7%が実際には10時間以上働いており、最長の者をとれば75%にも上る。裁量労働制とは、「みなし労働時間」を大幅に超過するサービス残業を強いているのが実態なのだ。

経団連の強い要求

 安倍政権は、批判を浴びながらも法案提出に執着している。グローバル資本―経団連からの強い要求だからだ。

 2013年4月経団連は、「労働者の活躍と企業の成長を促す労働法制」という政策提言を行った。労基法を明治時代にできた工場法の流れを汲むもので時代遅れと批判し、企画業務型裁量労働制の見直しを要求した。いわく、裁量労働制導入率が0・7%しかないのは「対象業務や対象労働者の範囲が狭く」「労使委員会の決議要件が厳格」「対象労働者の同意要件が厳格」であるからとして、規制の緩和を求めた。

 昨年末、野村不動産の営業マンへの裁量労働制の適用が不法であると摘発された。厚労省告示で「個別の営業活動の業務は対象業務となりえない」とされていることが摘発の根拠となった。経団連はこの告示に対し、「個別の営業活動の業務であっても労働者が顧客のニーズを調査、分析しながら企画提案を行っている場合は(裁量労働制の)対象外とすることは適切でない」とかみついた。

 安倍はこうしたグローバル資本の要請に沿って裁量労働制の改定案を作ってきた。企画業務型裁量労働の対象業務や対象労働者の大幅な拡大、提案型営業職への裁量労働制の拡大などは、経団連の要求の丸呑みだ。だから引き下がろうとしないのだ。

 さらに安倍内閣は2月6日、裁量労働制について「雇用形態や年収に関する要件はなく」「契約社員や最低賃金で働く労働者にも適用が可能だ」とする答弁書を閣議決定した。つまり、非正規雇用労働者にも適用し、ひとたび裁量労働制の適用とされれば、実質時間給が最低賃金を下回ることも可能、残業時間の年間規制も適用外とする。

 まさにすべての労働者を「定額働かせ放題」にする総ブラック化促進法制定が安倍や経団連の狙いだ。批判の声を全国から集中し、法案提出を許さず、葬り去ろう。

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