2018年03月09日 1517号

【裁量労働制と安倍のウソ/インチキ調査を元に虚偽答弁/晋三はデータ捏造の常習犯】

 安倍政権が最重要法案と位置づける「働き方」法案をめぐり国会が紛糾している。裁量労働制が「時短」につながる場合があると答弁していた安倍晋三首相は、撤回と謝罪に追い込まれた。これは「役所のミス」で済まされる問題ではない。進めたい政策を正当化するためのデータ操作は、この政権の「いつもの手口」なのだ。

加工されたデータ

 1月29日の衆院予算員会。立憲民主党の長妻昭議員は、裁量労働制のもとで働き過労死に追い込まれた事例を紹介し、対象拡大に前のめりな政府の姿勢を批判した。これに対し安倍首相は「厚生労働省の調査によれば、裁量労働制で働く方の労働時間の長さは、平均的な方で比べれば一般労働者よりも短いというデータもある」と反論した。

 ところが、安倍首相はこの答弁を撤回し謝罪することになる。データの疑義を指摘され、「不適切だった」と認めざるを得なくなったのだ。

 問題のデータは厚労省が2013年に発表した「労働時間等総合実態調査」。裁量労働制の対象拡大を審議した労働政策審議会(厚労相の諮問機関)にも提出された資料だ。政府はこの実態調査をもとに、平均的な一般労働者の1日あたり労働時間は9時間37分、裁量労働制(企画業務型)はそれより短い9時間16分と説明してきた。

 本当だろうか。一般労働者の1日あたり労働時間とされる9時間37分は、厚労省の担当者が「法定労働時間(8時間)+1日の法定時間外労働の平均値(1時間37分)」という計算式を用いて算出したもの。このデータ処理がどうにも怪しいのである。

 一般労働者にはパートも含まれ、所定労働時間が8時間以下のケースもある。したがって、法定時間外労働(残業時間)に8時間を単純に足した数値を1日あたりの実労働時間とみなすのはアバウトすぎる。実態よりも過大な数値が出てしまう。

 しかも、同じ調査で週あたりの残業時間は2時間47分となっている。1日に換算すると34分弱となり、前記1時間37分と整合しない。それもそのはず、1時間37分は「1か月のうちで最も長かった日の残業時間」を示す数値だった。「最長」を「平均」の数字に偽装するなんて無茶苦茶だ。

 逆に、裁量労働制で働く労働者の1日あたり労働時間は、実態よりも短くなっている疑いがある。集計の元となるデータの中に、極端に短い回答(1日1時間以下など)が数多く含まれていたからだ。


政権の意向のままに

 このように、問題の厚労省データは、一般労働者の労働時間は長め、裁量労働制は短めに見せかけるために作成されたものとしか思えない。こんなデータを根拠に、裁量労働制に時短効果があるかのように宣伝するのは詐欺同然の行為である。答弁撤回と謝罪は当然のことだ。

 しかし、安倍首相は自身や官邸の関与はかたくなに否定している。あくまでも「事務方のミス」ということにしたいようだが、常識的に考えてそれはない。

 「裁量労働制は長時間労働の温床」という批判をかわすためのデータを欲していた安倍政権。だが厚労省側は、普通に調査しても「裁量労働制のほうが労働時間は短い」という結論にはならないことを十分承知していた。

 実際、裁量労働制に関しては、安倍首相らの答弁とは正反対の傾向を示すデータがある。厚労省所管の独立行政法人「労働政策研究・研修機構」が2013年に行った調査である。これによると、裁量労働制で働く労働者の月平均労働時間(194時間)が、一般労働者のそれ(186時間)を上回っていた。

 政府のリクエストに応じようとすれば、「ないもの」を作り出すしかない。だから、素人目にもわかる無理筋のデータ加工を行ったのである。官邸が直接指示したのか、厚労省の忖度(そんたく)によるものなのか現時点で不明だが、インチキデータ問題の背景に安倍政権の政治的思惑があることは明らかだ。

法案提出を許すな

 安倍政権はデータ捏造(ねつぞう)の常習犯である。人気取りや政策推進のために犯行をくり返してきた。

 たとえば、昨年の衆院選では「GDP(国内総生産)を50兆円も増やした」と大宣伝していたが、これは安倍政権が2016年にGDPの計算方法を見直したことでそうなったものである。「若者の就職内定率は過去最高」にしても、主要因は高齢化による生産人口の大幅な減少であって、「アベノミクスの成果」であるかのような主張は誇大宣伝というほかない。

 安倍首相がPRで使うデータほど信用できないものはない。捏造犯にふさわしく、「安倍ネツゾウ」と呼んだほうがいいだろう。

   *  *  *

 厳しい批判にさらされながらも、政府は「働き方」法案を今国会で成立させる方針を崩していない。安倍首相は労働法制を「岩盤規制」と呼び、ドリルで穴をあけることが経済成長に不可欠だとうそぶいている。企業の儲けのために、さらなる労働者酷使を可能にしようとしているのだ。

 過労死遺族でつくる「全国過労死を考える家族の会」の寺西笑子代表らは2月23日、加藤勝信厚労相と面会し、法案の今国会提出を断念するよう要請した。寺西代表は、同法案に盛り込む裁量労働制の対象拡大は「長時間労働や過労死を招く」と強調した。

 ウソで固めた安倍流「働き方改革」。働く者を不幸にする悪法を絶対に許してはならない。       (M)

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