2018年03月21日 1519号

【朝鮮半島非核化問題/初の米朝首脳会談へ/平和的解決への扉開く】

 3月8日、トランプ米大統領は朝鮮(朝鮮民主主義人民共和国)・金正恩(キムジョンウン)委員長からの要請を受け、5月首脳会談開催を表明した。金正恩のメッセージをトランプに伝えた韓国大統領府鄭義溶(チョンウイヨン)国家安保室長が発表した。現役の米大統領と朝鮮首脳の会談は史上初めてであり、朝鮮半島の軍事的緊張緩和への画期的一歩となる。

世界中が歓迎

 首脳会談実現を仲介したのは韓国政府だ。韓国政府は3月5日、鄭室長を含む特使団を朝鮮に派遣した。特使団は平壌(ピョンヤン)で金正恩らと会談。南北首脳会談を板門店(パンムンジョム)で開くことなどに合意。その席上で、金正恩は「非核化への強い決意」「核・ミサイル実験は控える」等を明言し、トランプとの早期会談への意欲を表明していたという(要旨別掲)。しかも「大韓民国と米合衆国の恒例の合同軍事演習は継続しなくてはならないと理解しており、トランプ大統領にできるだけ早く会いたいと前向きな意欲を示していました」(3/9鄭室長)とされる。

 米オバマ前政権は「戦略的忍耐」と称して、朝鮮核・ミサイル問題へのかかわりを避けてきた。トランプは前政権との違いを際立たせるため積極的に関与し、朝鮮半島沖に太平洋・インド洋に展開する空母打撃群を集結させB1爆撃機を派遣し、米韓・日米軍事演習を繰り返してきた。この演習は、上陸部隊による金正恩暗殺を含む明確な朝鮮侵略予行演習であり、対する金正恩は核武装の口実に利用してきた。

 米韓軍事演習継続に「理解」を表明し、ロケット発射をやめ米朝会談を望むというのは、朝鮮側の大きな譲歩だ。

 首脳会談実現の報には、内外から一様に歓迎と期待が寄せられた。世界はこの動きを支持している。(別掲)

解決を切り開いた対話路線

 朝鮮の核開発問題は、1994年の「米朝枠組み合意」以降、何度も平和的解決のチャンスがあった。

 中でも、朝鮮・韓国・中国・ロシア・米国・日本の6か国協議は03年から07年まで積み重ねられ、「朝鮮の核開発停止とIAEA(国際原子力機関)査察。5か国による朝鮮への経済・人道支援。米・朝、日・朝の国交正常化交渉への協議」という共同文書採択までこぎつけていた。

 だが、米国は協議中から朝鮮を「世界で最も危険な政権」と名指しし、海外資産凍結を進めた。日本も本来は2国間で協議すべき「拉致問題」を持ち出し、会議を混迷させた。一方、朝鮮もミサイル発射を強行し、米・朝2国間協議を要求した。日・米の戦争政策が朝鮮の猜疑心(さいぎしん)をかきたて、相互不信が増幅し協議を中断させた。

 核・ミサイル問題の平和的解決への扉を開いたのは韓国・文在寅(ムンジェイン)政権の対朝鮮政策だ。文大統領は就任後初の国連演説で「核・ミサイル問題の平和的解決」「平昌(ピョンチャン)オリンピックへの朝鮮選手団参加」を呼びかけ、恒例となっている「オリンピック休戦」を「米韓軍事演習延期」に結びつけ朝鮮の「ミサイル発射自制」を引き出した。

 「キャンドル革命が生んだ」と自認する文政権は、平和的解決への韓国民衆の意思を反映し、朝鮮の核放棄から朝鮮半島非核化、平和体制構築への中長期計画を立てている。中ロも朝鮮の核ミサイル実験中断、米韓軍事演習中断から武力不使用、不侵略、平和共存へと朝鮮半島を巡る問題の包括的解決に向けての声明を発表している。

 2006年10月以降、国連安保理による対朝鮮制裁決議は10本に上る。「制裁強化」は、むしろ朝鮮に核開発の口実と時間を与え、解決の糸口さえ作らなかった。

 だが、文政権は昨年5月の発足後、わずか半年で事態を打開へと動かした。韓国鄭特使を迎えた大統領執務室で、トランプすら「ほら見てみろ。対話するのは良いことだ」と言って「4月会談」まで提案したという(3/10毎日)。

圧力に執着する安倍政権

 文在寅と対照的に、安倍首相は昨秋の国連演説で「対話による問題解決の試みは、一再ならず、無に帰した。なんの成算あって、我々は三度、同じ過ちを繰り返そうというのでしょう」と言い放ち、これまでの対話の成果を全否定。一貫して軍事的・経済的圧力のみを訴えてきた。そしてこの期に及んでなお、米韓を圧力一辺倒の側に立たせようと必死になっている。

 南北会談で朝鮮が米国との対話の用意があると表明したことが分かると、安倍は「完全かつ検証可能で不可逆的な非核化に向けたコミットメント(約束)が必要」と米国政府に伝えるよう指示。首脳会談実施が発表されると、トランプと電話会談し国会審議を放り出して4月に訪米する。

 朝鮮半島の平和と非核化、南北融和、北東アジアの緊張緩和は対話を通じた信頼醸成のみが実現しうる。拉致問題も日朝国交正常化に向けた動きなしに解決はない。朝鮮の核・ミサイル問題を自らの軍拡・改憲路線に利用することしか頭にない安倍に、3000万署名を突き付け対話・交渉への最大限の圧力≠かける時だ。

韓国・国家安保室長の発言 要旨(3/10毎日)

・北朝鮮の金正恩朝鮮労働党委員長は非核化の意思を表明し、核・ミサイル実験の凍結を約束

・金委員長は米韓合同軍事演習を続けることに理解を示した

・金委員長がトランプ米大統領との早期会談に意欲を表明した

・トランプ氏は恒久的な非核化実現のため、5月までに金委員長と会談すると語った

・韓国は日米などとともに、朝鮮半島の完全な非核化へ断固とした決意を維持する

・(北朝鮮の裏切りを許してきた)過去の過ちは繰り返さない

・北朝鮮の言葉が具体的な行動で示されるまで圧力をかけ続ける

米朝首脳会談実現への内外の反応

 すべての当事者の指導力やビジョンを称賛し、朝鮮半島の平和的な非核化に向けた努力を支援する(グテレス国連事務総長)

 歓迎する。次のカギは関係各国が積極的に呼応し、力を合わせ、朝鮮半島の核問題を対話解決の軌道に再び戻すことだ(中国外務省)

 正しい方向へ向けた一歩だ。これらはまさしく、ロシアと中国が訴えてきたことだ。圧力や最後通告、一方的な制裁措置ではなく、緊張緩和による解決だ(ロシア外相)

 私たちが長く願ってきた北東アジアの非核地帯化につながってほしい(原水爆禁止国民会議川野浩一議長、ナガサキ被爆者)

 政権が代わっても普遍的に引き継がれる信頼関係を構築し、統一への足がかりにしてほしい(大阪・ワンコリアフェスティバル鄭甲寿(チョンカプス)代表理事)

 米朝のトップが会うのは画期的なこと。拉致被害者全員の救出につながる大きなチャンス。核・ミサイル問題が主題になるだろうが、一言でも「全員を返すべきだ」と言ってほしい(拉致被害者横田めぐみさんの母、横田早紀江さん)

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