2018年03月21日 1519号

【みるよむ(476) 2018年3月10日配信 イラク平和テレビ局in Japan 病院でガン治療ができない】

 イラクではガン患者が増加している。ところが公立病院ではまともな治療ができず、患者は高額の治療薬を闇市場で買っている。2018年1月、サナテレビはこの問題について市民にインタビューした。

 『公立病院ではガン治療ができない』(番組の原題)とは一体どういうことか。登場するジャーナリストは「イラク最大の公立病院」といわれるメディカル・シティー病院の実態を語る。

 この大病院では、ガンの患者が受診しても治療薬がもらえない。では患者はどうするのか。なんと、闇市場に行って1週間分にも満たない少量の抗ガン剤を買うのだ。抗ガン剤は100ドルもする。イラクの労働者の賃金は月額500ドルから正規雇用労働者でせいぜい1000ドル程度だ。

 なぜこんな事態になっているのか。保健省の役人が医薬品を闇市場に横流ししているからだ。ジャーナリストは「汚職に手を染めた者は全員裁判に送らなければなりません」と訴える。

 ある年金生活者は「長年の戦争でガンは広がりました」と指摘する。1991年の湾岸戦争、2003年イラク戦争で米軍などがウラニウム爆弾(いわゆる「劣化」ウラン弾)を大量に使い、多数のガン患者が出たことが想起される。

 その男性は「治療を受けるために保健省に行く。しかし、2週間も3週間も待たされる。受けられなければ、薬は闇市場で高額で買わなければならない」と続ける。「アバディ首相、あなたはどこにいるのですか。大臣のみなさん、あなた方はどこにいるのですか」と指導者らを追及し、「税金を盗む泥棒のような汚職が患者をこの世から消し去ります。患者を殺すのです」と憤りを隠さない。

医療崩壊の元凶は汚職

 最後に登場する公務員は「汚職の背後には強力なマフィアがいるので、政府の幹部でも立ち向かえません」と訴える。選挙をしても同じ顔ぶれが出てくるだけで何も変わらない。「たとえ良心的な人物が当選してもマフィアを恐れて沈黙するだけだ」と言う。これが医療崩壊の元凶なのだ。

 占領以前、イラクでは医療費は無料だった。しかし、占領後の歴代政府は汚職で公的医療を破壊し、民間部門に利権を売り飛ばした。サナテレビはこの問題に光を当て、市民が声を上げて正当に医療を受ける権利を取り戻そうと訴えている。

(イラク平和テレビ局in Japan代表・森文洋)



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