2018年03月21日 1519号

【貧困深刻化させる高齢社会対策大綱 年金は削る、80歳まで働け】

 2月16日に新たな「高齢社会対策大綱」が発表された。この大綱は、政府の「高齢社会対策の中長期にわたる基本的かつ総合的な指針」とされるものであり、今回のキーワードを「エイジレス社会」とする。大綱は、65歳以上が高齢者とされていることを否定し、これまでの高齢者対策を根本から覆そうとする意図を隠さない。「年齢区分で人々のライフステージを画一化することを見直す」と明記する大綱は、何を攻撃しようとしているのか。

全世代の名で「自立」強要

 一般に、65歳以上が高齢者とされている。大綱は、これを「現実的なものではなくなりつつある」という。「全世代による全世代に適した持続可能なエイジレス社会の構築」と「『全世代型の社会保障』への転換」を強調する。これまでの高齢者政策などを年齢による画一化されたものと決めつけ、「『教育・仕事・老後』という単線型の人生」からライフスタイルの多様化を推進するというのだ。

 安倍首相を議長として昨年9月に立ち上げられた「人生100年時代構想会議」の議論を見てみよう。この会議は、超長寿社会を迎えるにあたって経済・社会システムはどうあるべきか、を掲げて4年間に実行する教育・雇用・社会保障政策などの方針を検討する場として設定された。

 『LIFE SHIFT 人生100年時代の人生戦略』の共著者であるリンダ・グラットンが議員として参加している。

 グラットンは、「日本に生まれる子どもの半分が100歳以上の人生を生きる」のだから「80歳まで働く」ことを提唱。そして、「フルタイム教育、フルタイムの仕事、フルタイムの引退生活という通常の3ステージの人生は、将来的には適切でなくなる」と言う。この問題提起を基調にして議論が進められている。

 たしかに人生100年時代が来る可能性は高い。人が生きる年数の中央値(生存数が半分になる年齢)は、男性約83歳、女性約89歳であり、女性の半数が90歳まで生きることを表している。医療・衛生状態の進歩を考えれば、中央値100歳は不思議でない。

 そうであるならば、なおさら高齢者の生活や健康などを保障する適切な政策を行う必要があるはずだ。「人生100年時代構想会議」ではそれと真逆の議論が行われている。高齢者向け社会保障を削減するので、80歳まで働いて「自立」することを高齢者に強要するものになっている。


ターゲットは年金削減

 「人生100年時代構想会議」での議論内容はそのまま大綱に引き継がれている。「エイジレス社会」を強調する「高齢社会対策大綱」は何を定めたのか。

 大綱の特徴は、公的年金の支給開始を70歳超でも可能とすることにある。年金受給を遅らせている人が1%程度しかいない現実があるように、これは現行の支給開始年齢に影響を与えない。にもかかわらず、70歳超を可能と明記したことは将来に支給年齢を引上げるための布石である。

 年金削減の方法には支給額を減額することと支給年齢を遅らせることがある。支給額削減については2016年の年金カット法成立を受けて4月から実施される。この方法には複雑な仕組みがあるため、削減はすぐに感じにくい。ところが、支給年齢延長はすぐに目に見える。そこで、一定の緩和策でごまかすことになる。まず、支給開始延長から始めようというわけだ。

 大綱は、私的年金の活用を推奨する。公的年金を削減するので私的年金で補って生活を維持しなさい≠ニいわんばかりである。ここでも自己責任論が押し付けられている。

 さらに、80歳まで働かせるため60歳から64歳までの就業率を63・6%(2016年)から2020年に67・0%に引き上げる数値目標も設定している。まさに、フルタイムの引退生活という老後を否定し、年金に頼らず働き続けよとする。これが「エイジレス社会」である。

 安倍政権の考える「人生100年時代」の内実は、高齢者の概念を崩すとともに国民生活に介入し、人びとの生き方まで指図することにある。それは、高齢者だけでなくすべての人びとの人間らしい生活を保障する公的責任を否定し、貧困問題をさらに深刻化させる。声を上げ、生存権破壊攻撃を阻もう。
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