2018年04月06日 1521号

【戦争政策最優先の安倍改憲/人権は軍事に踏みにじられる】

 安倍首相は自民党内を十分取りまとめることもできず、党大会での9条「改正」の条文案決定を断念せざるを得なかった。違憲の自衛隊を憲法に書き込むことは、軍事を優先し際限のない人権侵害に道を開く。森友公文書改ざん問題で危機に瀕する安倍政権を一気に退場させよう。

憲法の根幹壊す自衛隊明記

 自民党は3月22日の憲法改正推進本部の会合で、安倍首相が主張する9条改憲案に沿って自衛隊を憲法に明記する方向で細田本部長に一任することを決めた。ただし、石破元幹事長らが第9条2項削除を譲らなかったことなど党内の意見対立もあり、25日の党大会では「条文イメージ・たたき台素案」をまとめた、という意味不明の報告がされたにとどまる。

 「素案」と報じられているのは、安倍が持ち出した「9条2項は変えず、9条の2を新設し、自衛隊を書き込む」というもの(別掲)。それは憲法の原理に全く反する。

 憲法9条は、第1項で武力による国際紛争解決を放棄し、その保証として第2項で戦力不保持と交戦権否認を定めた。自衛隊はすでに世界屈指の軍隊だ。災害救助隊ではなく、「自衛」の名による武力行使のための組織だ。その自衛隊を憲法に書きこむことは、第2項を否定し、第1項の保証を無にする。平和を愛する諸国民の信義に対する背信行為だ。安倍改憲は平和主義によって軍事力の一切を否定した憲法の根幹を破壊する。

 軍事は憲法に書き込まれることで平和主義を死文化させ、憲法の他の原理(国民主権、基本的人権の尊重)と肩を並べるものとなる。わざわざ改憲してまで憲法の条文にねじ込むのだから、為政者が軍事を優先するのは明らかだ。

 現状でも、安倍政権は軍事優先の政策をとっており、改憲となれば市民は異議の申し立てすら封殺される。

すでに戦時体制

 安倍は、軍事を人権に優先させる政策を強行してきた。

 沖縄県名護市辺野古や東村(ひがしそん)高江では、住民生活を破壊する軍事訓練が横行し、基地建設に反対する住民の弾圧が繰り返された。

 東村の住民は、転居を余儀なくされるほどの連日連夜の米軍演習による爆音に苦しめられてきた。しかも、住民を「ゲリラ」に見立て標的にする演習だ。憲法第13条の個人の尊重や幸福追求権を踏みにじる行為だ。

 演習激化を招くヘリパッド建設に反対し平和的に座り込む住民を、安倍は機動隊の全国動員による強権で弾圧した。辺野古では海上保安庁が抗議のボートを転覆させるなどの弾圧を繰り返している。戦争政策に反対する者には、命を危険にさらすこともいとわず、生存権などお構いなしだ。反対運動のリーダーである沖縄平和運動センター山城議長の不当な長期勾留は、奴隷的拘束を禁じた憲法第18条に反する。

 憲法は権力を縛るためにある。その憲法に照らして政府の横暴から市民を守るのが司法の務めだ。だが、戦争政策の下での裁判所もまた、人権の上に軍事を置く。

 嘉手納、横田、厚木の基地爆音被害を巡っての訴訟で、裁判所は過去の損害賠償を認めることはあっても、将来の飛行差し止めを命じることはない。損害の救済は当然としても、基地周辺住民の静かな夜を返せ≠ニいう幸福追求権は踏みにじられてきた。山城議長の勾留も、検察による勾留請求を裁判所が認めたことで長期にわたった。

命を奪う軍事行動

 軍事は生存権を踏みにじり、直接命まで奪う。

 2月5日、佐賀県で自衛隊のアパッチ攻撃ヘリが墜落し、民家を襲った。在宅の少女は奇跡的に軽傷にとどまったが、乗員は全員死亡した。

 過去、軍事が市民の命を奪った事故はひとつやふたつではない。

 1959年、沖縄の宮森小学校に米軍F100戦闘機が墜落した事故では、児童11人、地域住民7人が犠牲となり負傷者は210人を数えた。

 77年、横浜市の民家に米軍のF4ファントム戦闘機が墜落した。家には幼児2人と母がいた。3人はジェット燃料に焼かれ、全身にやけどを負った。幼児は翌朝を待たずに息絶え、母親は一命をとりとめたものの60回にもわたる皮膚移植を繰り返し、4年後に亡くなった。事故現場に駆け付けた自衛隊が救ったのは、パラシュートで無事脱出した米軍パイロット2人のみ。被害住民の救助は近隣住民があたった。米軍占領下で起きたことではない。サンフランシスコ講和条約で独立し、経済大国となった日本で起こったことだ。

 海上自衛隊も「自衛艦」を漁船などの民間船舶に衝突させ死亡事故を何度も起こしている。

 今年2月、米軍三沢基地のF16戦闘機は、漁真っ盛りの湖に1・3トンもある補助燃料タンク2本を投下した。漁船が転覆すれば命にかかわる行為だ。漁船は無事だったが、漁業者は汚染のためにしばらく禁漁とせざるを得なかった。生業を奪われたのだ。

 「生存権の保障」は、国民が政府に課した最低ラインの義務だ。だが、軍事優先の政策は保障するどころか、直接命を奪う。戦争国家は、軍事の前に住民の命を差し出す。

 このような事故は、今や日本中どこで起こっても不思議ではない。頻繁に墜落事故を起こす米海兵隊オスプレイは、時・所を選ばず大手を振って飛行している。地元自治体が自粛を申し入れても、安倍政権も米軍も耳を貸さない。そのオスプレイは、順次陸上自衛隊にも配備される。

戦争政策の合憲化許さない

 安倍政権になって6年、軍事費は際限のない膨張を続け、史上最高を更新。毎年5兆円を超えている。その装備も「自衛」とはかけはなれた侵略兵器のオンパレードだ。

 軍事費拡大の裏で削減されているのが社会保障費だ。年金は毎年支給開始年齢が引き上げられ、金額も抑制されている。生活保護費も削減の一途。医療・介護は保険料、自己負担増はあっても、給付は削減され続けている。

 今でも、軍事は生命と市民生活を脅している。安倍改憲は、軍事優先の戦争政策を憲法上も公認する。たちまち人権が侵されるのは明らかだ。あらゆる改憲策動もろともただちに安倍政権を退陣させなければならない。

自民党憲法改正推進本部 執行部による「素案」

 9条の2 (第1項)前条の規定は、我が国の平和と独立を守り、国及び国民の安全を保つために必要な自衛の措置をとることを妨げず、そのための実力組織として、法律の定めるところにより、内閣の首長たる内閣総理大臣を最高の指揮監督者とする自衛隊を保持する。

 (第2項)自衛隊の行動は、法律の定めるところにより、国会の承認その他の統制に服する。

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