2018年04月06日 1521号

【汚染実態消し去り市民に被ばく強要 放射線量基準の緩和を許すな】

 原子力規制委員会の放射線審議会は3月2日、空間放射線量「毎時0・23マイクロシーベルト」が福島原発事故による年間の追加被ばく線量1_シーベルトに相当する線量として妥当かどうか議論を始めた。また原子力規制委は3月20日の定例会合で、福島県内にある放射線監視装置(モニタリングポスト)約3千台のうち避難区域外にある約2400台を2020年までに撤去することを決めた。この動きは何を意味するのか。

除染目標数値を引き上げ

 放射線審議会での議論の狙いを示すのは、1月17日、原子力規制委の記者会見での更田(ふけた)豊志委員長の発言だ。

 更田は、空間線量が年間1_シーベルトの場所で生活している人にガラスバッチを付けてもらって個人の被ばく線量を計測した結果では実際には7分の1だったので、「1マイクロシーベルト/時のところで居住しても1_シーベルト/年に達しないという感触で」、まずは空間線量と被ばく線量との相関式を作り直すべきだと述べた。

 年間1_シーベルトは1時間当たりにすると0・114マイクロシーベルトだ。ところが政府は、1日のうち16時間は放射線の6割を遮へいする建物の中にいるという「生活モデル」を考え出し、空間線量が1の場所では個人の被ばく線量0・6になる(換算係数0・6)とした。そして、毎時0・19マイクロシーベルト(0・114÷0・6)に自然放射線0・04マイクロシーベルトを加えた毎時0・23マイクロシーベルトを年間の追加被ばく線量1_シーベルトに対応させている。

 それを更田が言うように毎時1マイクロシーベルトの空間線量が年間1_シーベルトの外部被ばく線量に相当すると相関式を変更すれば(換算係数は0・12程度となる)、現行の5倍の追加被ばくを許容することになる。毎時1マイクロシーベルトは、そこで飲食も就寝もしてはならない放射線管理区域に該当する数値だ。

個人線量計の問題点

 いったい更田委員長は何を根拠にこんなことを言い出したのか。記者の質問に対して更田は「根拠は実測値です」と答えた。その調査は、伊達市が実施したガラスバッジによる外部被ばく線量測定のことと考えられる。それを基に、福島県立医大の宮崎真助手らが、個人が受けた外部被ばく線量は空間線量の約0・15倍(約7分の1)だったとし、環境省が採用している換算係数0・6は4倍過大だと発表している(2016年12月)。

 伊達市の調査に対しては前方からの放射線しか正しく拾わないガラスバッジでは全方位からの放射線を測定できないとの指摘があり、また宮崎らの分析に対しても、調査対象の10%以上が環境省の換算係数0・6を超えて被ばくしている実態を無視して平均しているなど、極めてずさんだとの批判もあった。

 黒川眞一・高エネルギー加速器研究機構名誉教授が指摘しているように、現行の換算係数0・6も過小となる場合があるのであって、換算係数は1(外部被ばく線量=空間線量)とすべきなのだ。

もう除染に金はかけない

 政府はいまなぜ今除染目標値の変更を言い出したのか。

 これまでの除染目標値に従う限り、山林などの手つかずの場所の除染はいつ完了するのか見通しが立たず、除染費用もいくらかかるかわからない。だが、除染目標値を引き上げれば、除染が必要な面積は大幅に減り、除染に金をかけずに済み、「もはや除染も必要ないくらい放射線量は下がった」と宣伝できる。

 だが、1_シーベルト自体を変更することには当然強い抵抗がある。そこで、換算係数を変更すれば(仮に0・12へ)、表向きの目標値1_シーベルトはそのままで、実質5_シーベルト/年に引き上げたのと同じ効果を得ることができる。

 影響は除染目標値の緩和にとどまらない。公衆被ばく線量限度である1_シーベルトも実質的に5倍に引き上げられることにつながる。福島県に住む人はもちろん、日本に住むすべての人びとが知らないうちにこれまでの数倍の被ばくを強要されることになっていく。

 政府は、それでも足りないと見たのか、モニタリングポストの8割を撤去するという。モニタリングポストがあり、空間放射線量数値が住民の目に見える場所にある限り、その換算係数が本当に正しいのかが問題にならざるを得ない。そこで、空間放射線量そのものが住民の目に触れないようにしてしまおうというのだ。

 放射能汚染の事実をおおいかくし、市民に被ばくを強要する暴挙を許してはならない。

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