2018年04月20日 1523号

【ドクター林のなんでも診察室 「抗菌薬をどうぞ」の思い出(?)】

  「林先生、かぜにケフレックスをどうぞ」。数十年前に聞いた製薬会社販売促進員の「あいさつ」を思い出します。肺炎など細菌感染に使う抗菌薬の売り上げを伸ばすために、カゼに使えというわけです。抗菌薬をあまり使わない私への当て付けでした。当時から、不要な抗菌薬(抗生物質など)を使うのは医師の習性になっていました。

 そのころから抗菌薬の乱用と闘ってきました。まず、私の診療では不要な抗菌薬を使わないようにしました。加えて、日本小児科学会宣伝物のかぜに抗生物質を使おう≠ニの記述を修正させる。大阪保険医協会の抗菌薬が必要≠フ主張に抗議して、抗菌剤はかぜを治さないし肺炎や中耳炎なども予防もしないと科学的データを紹介する。医問研高松勇氏らによる大阪小児科学会の抗菌薬乱用を減らす活動にも協力しました。

 抗菌薬の乱用により、肺炎や尿路感染などで本当に必要な時に効かなくなります。抗菌薬の効かない菌を「耐性菌」と言い、世界的大問題になっています。これによる死者は現在年間70万人、2050年には1千万人になる試算もあります。

 日本の現状はどうでしょうか。耐性菌の頻度は、肺炎や髄膜炎を起こす肺炎球菌のペニシリン耐性率は世界35か国中ワースト1位、MRSAという名で知られている黄色ブドウ球菌耐性率は37か国中同5位など。とても多い病原菌に大変有益な抗菌薬が効かなくなっているのです。

 人間だけではありません。家畜への抗生物質使用が人間の細菌にも耐性をもたらすことも大問題になっています。4月3日付毎日新聞は、鶏肉の耐性菌の率は「国産や輸入の鶏肉の半数」の記事。実は、輸入は34%ですが国産は59%。国産の方が耐性菌の率が約2倍なのです。

 こんな中、2016年の志摩サミットでもこの問題が議題にされました。これで、日本も耐性菌対策を打ち出さざるを得なくなったと思われます。

 小児科関連では、4月から3歳未満中心に、抗菌薬を使わない理由を説明したら保険から説明料金(?)が払われるようになりました。これで小児科医の抗菌薬乱用は相当減るでしょう。しかし、私の周辺では、耳鼻科などはばんばん使っています。

 元々、耐性菌をこれほど増やした背景には、製薬企業の宣伝活動があります。今は冒頭の様な例はないかも知れません。でも、もっと巧妙な手段や、学会全体を動かして各分野の診療指針作成に強い影響力を与え、抗生物質を多く使わせる内容にしている場合も考えられます。

 これらを厳しく規制することが第一ですが、今回の診療報酬改訂政策で、企業の主な役割は儲け優先といえる新しい薬の開発のようです。安倍内閣では企業への強い規制は期待できませんね。   (筆者は小児科医)
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