2018年05月04日・11日 1525号

【原発賠償京都訴訟判決の意義と課題 国の責任認め広い範囲で救済】

 3月15日京都地裁、16日東京地裁と立て続けに原発事故の避難者による集団賠償訴訟の判決が出された。ここでは、京都訴訟判決の意義と課題を明らかにする。

国の責任認定は定着

 京都判決も東京判決も津波の予見可能性を認め、その対策を実施しなかった東京電力はもちろん、津波対策を実施させるという規制権限を行使しなかった国にも違法性があるとし、東電と連帯して賠償する責任があるとした。

 これまでに国を被告にした5つの訴訟(群馬、千葉、生業、京都、東京)で判決が出た。そのうち4つが国の責任を認め、国の責任を否定した千葉地裁判決も津波の予見可能性や国の規制権限については原告側の主張をほぼ認めていた(対策を取ったとしても津波の被害を回避できたかどうかわからないとして、国の責任を否定した)。

 東電に津波対策を実施させなかったことで原発事故を招いた責任が国にもあるということはほぼ定着し、この流れはもはや動かしがたいと言ってよい。

中間指針を超えて救済

 京都訴訟は避難指示区域外からの避難者(いわゆる自主避難者)が原告の大多数を占める。区域外避難の場合、避難指示区域内と違って、避難したことに相当因果関係(避難の社会的相当性)があるかどうかがまず問題になる。

 さらに区域外といっても、原子力損害賠償紛争審査会による中間指針追補(自主的避難等に係る損害について)で、一定の賠償(子ども・妊婦40万円、それ以外8万円)が認められた自主的避難等対象区域とそれ以外の区域に分かれる。京都訴訟の原告には、自主的避難等対象区域外からの避難者が含まれている。

 京都判決はこれらの避難についてどう判断したのか。

独自の避難基準を示す

 まず判決は、低線量被ばくに関しては未解明の部分が多くLNTモデル(注)は科学的に実証されたものとは言えないなどとして、空間線量が年間1_シーベルトを超える地域からの避難・避難継続はすべて相当であるという原告側の主張は採用できない、とする。低線量被ばくの危険性をめぐって国際的には確立した知見を無視した判断となった。

 一方、国が避難指示の基準とする年間20_シーベルトをそのまま避難の相当性を判断する基準にはできない。国の避難指示によらない避難(いわゆる自主避難)であっても、個々人の属性や置かれた状況によっては社会通念上、相当である場合もあり得るとして、独自の判断基準を示した。

 ア.避難指示等対象区域に居住していた者が避難した場合(これは言うまでもない)。

 イ.自主的避難等対象区域に居住していた者が、(ア)2012年4月1日までに避難した場合、(イ)同居していた妊婦または子どもの避難から2年以内に同居するために妊婦の配偶者または子どもの親が避難した場合。

 ウ.自主的避難等対象区域外に居住していた者で、個別具体的事情によりイと同等またはイに準じる場合。個別具体的事情としては、第一原発からの距離、放射線量、避難した時期など7項目の独自の避難基準(別掲)で判断するとして、認定対象を拡大した。

 その結果、原告57世帯のうち避難の相当性が認められたのが50世帯、一部認められた(最初の緊急避難は認められたが、いったん家に戻ったあと期間を置いてからの避難は認められなかった)のが4世帯、認められなかったのが3世帯となった。

 地域で言えば、自主的避難等対象区域外の会津地方、白河市、北茨城市、大田原市、松戸市、柏市からの避難が認められた一方、仙台市とつくば市からの避難は認められなかった。

損害認めるも2年のみ

 原告は健康被害への恐怖、避難に伴う苦痛、避難生活に伴う経費増・減収、コミュニティからの分断など多面的な損害が生じていると主張した。これに対し、判決は避難を相当と認めたケースについては「避難指示の有無にかかわらず」実際に生じた損害を広く認めた。ただし、避難から2年も経てば生活も安定するとして、賠償期間の限度を2年間とした。

 精神的損害(慰謝料)については、自主的避難等対象区域から避難した者も避難せずに滞在し続けた者も30万円、妊婦・子どもは60万円とし、中間指針を上回る損害を認めた。対象区域外であっても事情を総合的に考慮して対象区域と同等の場合は同額、対象区域に準じると認められる場合は半額の15万円、妊婦・子どもは30万円とした。

控訴審勝利、政府交渉へ

 京都判決は、東電はもちろん、国にも原発事故を引き起こした責任があること、国の中間指針が示した賠償の対象範囲は狭く、賠償額の水準も不十分であることを示した。その意義は極めて大きい。それは、原告・弁護団の奮闘とともに、毎回の傍聴や2万4千筆を超える公正判決署名など粘り強い運動と世論の力で切り開いたものだ。

 しかし、避難時期を2012年4月1日で区切り、賠償期間を避難から2年間しか認定しなかったことは、2014年4月以降の避難継続は避難者が勝手にやっていることだと言うのと同じだ。「2年も経てば避難生活も安定する」というのは、避難生活の実態とはかけ離れている。

 精神的損害(慰謝料)にしても、中間指針を上回ったとはいえ、とても避難者が受けた精神的苦痛を反映したものとはいえず、金額自体があまりにも低い。

 原告は3月28日、請求満額が認められた1名を除く全員が控訴。裁判は大阪高裁での審理に移る。

 原発被害者訴訟原告団全国連絡会はこれまでの判決を背景に東電と国に対して全面解決(すべての被害者への謝罪と十分な賠償、原状回復に向けた諸施策、帰還促進政策の見直し、医療・健康対策の確立被害者支援法の制定など)に向けた交渉の席に着くよう要求している。各訴訟の控訴審と並行して対政府交渉の比重が高まっていく。避難者の闘いを引き続き支援し、共に広げていかねばならない。

(注)LNTモデル

 放射線量とがんや白血病などの発生確率は直線的に比例し、しきい値(それ以下は発生しないという値)は存在しないという科学的見解。

独自の避難基準

◆第一原発からの距離

◆避難指示等対象区域との近接性

◆行政から公表された放射線量に関する情報

◆元の居住地での自主的避難者の多寡

◆避難を実行した時期

◆自主的避難等対象区域との近接性

◆世帯に子どもや放射線の影響を特に懸念しなければならない事情を持つ者がいること

ホームページに戻る
Copyright Weekly MDS