2018年05月25日 1527号

【未来への責任(249)自己決定権を行使し分断克服へ】

 韓国の文在寅(ムンジェイン)大統領はいわゆる「失郷民(シリャンミン)」だ。1953年1月、慶尚南道(キョンサンナムド)巨済(コジェ)島で生まれたが、両親の出身地は北の咸鏡南道(ハムギョンナムド)咸興(ハムン)市。両親は朝鮮戦争中の1950年12月に戦火を逃れるため北を脱出し、巨済島に辿(たど)り着いた。そこで文大統領は生まれた。彼の出自、家族史には南北分断と朝鮮戦争の戦火が刻まれている。そして、生まれてこの方、彼は父母の故郷を訪ねたことはないのだ。

 4月27日、板門店(パンムンジョム)の「平和の家」で南北首脳会談が開催された。会談後、文大統領と金正恩(キムジョンウン)朝鮮労働党委員長は「朝鮮半島の平和と繁栄、統一のための板門店宣言」を発表した。宣言では、(1)南北関係の改善・発展による共同繁栄と自主統一(2)軍事的緊張の緩和と戦争の危険の解消(3)朝鮮半島の恒久的な平和体制の構築、をめざし協力していくことを確認しあった。

 その(1)の冒頭に何と書かれていたか? 「(1)南と北は、わが民族の運命は我々自らが決定するという民族自主の原則を確認し、(中略)関係改善と発展の転換的局面を開いていく」。南北首脳はまず、自己決定権を行使することで現下の困難と分断を克服していくという決意を表明した。確かに米国や中国、また日本等を排除しては現局面を打開できない。しかし、両首脳は、最後は自分たちのことは自分たちが決定するという原則を明記した。日本の植民地支配とそれに続く南北分断の中で、南北朝鮮は「大国」の利害・思惑等に翻弄(ほんろう)され、自己決定権を実質的に奪われてきた。今こそそれを取り戻す。それを第一に打ち出すことで、双方の固い意思を他国に向けても表明したのである。

 (3)の(3)では「南と北は、休戦協定締結65年となる今年、終戦を宣言し、休戦協定を平和協定に転換し、恒久的で強固な平和体制構築のため南北米3者または南北米中4者会談を積極的に推進する」ことを確認しあった。米朝間に軍事的緊張が高まり一触即発の状況に陥った中でも、文大統領の「朝鮮半島で戦争はさせない」との立場は揺るぎなかった。それは「失郷民」たる文大統領のポリシーによるものであり、彼を大統領に押し上げた「キャンドル革命」推進の韓国市民の共通の意思なのである。「終戦を宣言」―これに多くの韓国市民は涙し、大多数の市民が賛同したのは一時的な感情からではなかった。

 そして、この(3)項を踏まえ(4)で「南と北は、完全な非核化を通じて、核のない朝鮮半島を実現するという共同の目標」を確認した。これに対し、「具体的プロセスが書かれていない」「言葉だけ」との批判がある。しかし、金委員長は「米国と信頼が築かれ、終戦と不可侵を約束されれば、果たして私たちが核を持って困難を強いられる理由があるだろうか」とも述べている。(3)と(4)をしっかり進めていく先には朝鮮半島非核化しかない。

 4・27南北首脳会談、板門店宣言は東アジアに新局面を切り開き、平和実現の推進力となった。「蚊帳の外」の日本は今こそ植民地主義を清算すべきだ。それこそが日本の果たす役割だ。

(強制連行・企業責任追及裁判全国ネットワーク 矢野秀喜)

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