2018年05月25日 1527号

【見・聞・感/モニタリングポスト撤去の裏側】

 福島県内で街頭に設置されている放射線量計(モニタリングポスト)が撤去されようとしている。避難区域外にある約2400台を2020年度末までに撤去するという。2020年といえば東京五輪。福島原発の汚染水について「アンダーコントロール」と宣言した安倍は、自分の言葉に反する不都合なものは五輪を契機にすべて消し去るつもりのようだ。

 原子力規制委員会は、伊達市での「ガラスバッジ測定による実測値」を撤去の根拠にしている。人は24時間ずっと外にいるわけではなく、1日の3分の2は屋内で過ごすので、ガラスバッジ測定ではどうしても外部被曝線量は低く計測されることになる。その測定結果に基づいて、線量基準も住民の被曝防護策も緩めるのが国や県の方針だ。その国にとって、24時間ずっと外に立ち、外部線量を測定し続けるモニタリングポストが邪魔で仕方ないのだ。

 原発事故当初はあれほど声高に叫ばれていた除染さえ、今後は縮小される。放射能汚染、健康被害という不都合な真実と真摯に向き合うのではなく「とりあえず目の前の臭いものに蓋」というのが、安倍政権の一貫した姿勢だ。

 そもそも伊達市でのガラスバッジ測定自体が怪しい。ICRP(国際放射線防護委員会)と住民が対話をする「ダイアログセミナー」をこの間、ずっと行ってきたのが伊達市だからだ。主催はICRP第4委員会委員長で、「放射能汚染地でも楽しく暮らせる」というICRP勧告111号を中心になってまとめた人物のジャック・ロシャール。住民に放射能被ばくを受け入れさせるエートス運動の中心的役割を果たしてきた伊達市で、その中心人物が考え出した計測方法を根拠に、従来の放射線防護策を緩和し、矛盾するものは全部消す。モニタリングポスト撤去の真の狙いだ。

 色も音も匂いもなく、痛みも感じない放射能の存在を可視化する唯一の存在、モニタリングポスト。撤去されたら、これから生まれる子どもたちは、そのことを知らないまま大人にならなければならない。撤去は許されない。

 幸いなのは地元・福島で、撤去に反対し、あきらめずに行動する市民がいることだ。そうした市民に連帯したい。

       (水樹平和)


 「見・聞・感」は、週刊MDS編集部員が見て・聞いて・感じたことを題材としたコラム。福島在住時に原発事故を経験し現在は北海道で生活している水樹が主に担当し、今号より再開します。
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