2018年05月25日 1527号

【「安倍改憲はもう無理」か/国民投票対策は改憲勢力が先行/3000万署名の成功が必要だ】

 千載一遇のチャンスを逃すつもりか―。改憲勢力が国会の「空転」に苛立っている。たしかに安倍政権は続出する疑惑の火消しに追われ、国会での憲法論議は止まったままである。しかし、「安倍改憲はもう無理」と決めつけるのは早計だ。国民投票を視野に入れた運動の構築は改憲勢力が先行している。この事実を軽視してはならない。

改憲ムードはないが

 「この1年間で改憲論議は大いに活性化し、具体化した。いよいよ私たちが憲法改正に取り組む時がきた」。安倍晋三首相は憲法記念日に行われた改憲派の集会にビデオメッセージを寄せ、悲願成就への意気込みを語った。

 もっとも、首相の言葉を額面どおりに受けとめた者はいないだろう。むしろ焦燥感を募らせたのではないか。公文書改ざんの発覚や森友・加計学園疑惑の再燃などで安倍内閣の支持率は急降下。とても国会の憲法審査会を動かせる状況ではないからだ。

 自民党の船田元・憲法改正本部長代行は5月3日、改憲原案の年内発議は難しいとの見通しを語った。安倍ファンクラブの会報と化した産経新聞にすら「もはや年内発議は絶望的」「東京五輪後にずれ込む公算」との観測記事(5/3)が載る始末である。

 実際、安倍首相に対する不信感の高まりと連動し、世論は「安倍改憲」に拒絶反応を示している。朝日新聞の最新世論調査によれば、安倍政権下での改憲に「反対」が58%に達し、「賛成」30%を倍近く引き離した。政策の優先度で改憲を挙げた人は11%しかいなかった。

 ただし、「世論がこれなら国民投票になっても改憲は確実に阻止できる」かというと、話は別だ。現在の国民投票法に有効最低得票数や得票率の規定はない。どんなに低投票率でも「賛成」票が1票でも多ければ、憲法「改正」が実現するのである。

 重要なのは、必ず投票所に足を運んでもらうこと。そのためには支持者への直接的な働きかけが欠かせない―。安倍応援団の極右組織・日本会議が立ち上げた「美しい日本の憲法をつくる国民の会」が取り組む改憲賛同署名は、そのような問題意識にもとづく運動である。

 この署名は国会へ提出する請願書名ではない。「国民投票の過半数」を実現するための国民ネットワークづくりと位置づけられている。署名はそのまま賛同者リストとなり、改憲運動の情報提供や国民投票の際の呼びかけなどに活用される。署名数は目標の1千万人をすでに突破した。

自衛隊が改憲署名

 まさに改憲実現のための運動だが、憲法尊重義務があり、政治活動を禁じられているはずの自衛隊がこれに協力していた。自衛隊OBや現役隊員らが参加する公益社団法人「隊友会」(約24万人)が組織決定により、改憲賛同署名を集めていたのである。

 隊友会の2015年度事業報告をみると、会として署名運動を始めたことが明記されている。地方組織である東京都隊友会は17年度の年次報告で、「会員の皆さん! 安倍首相の提言で憲法改正論議が活発になり、国民投票が現実味を帯びてきました。国民の悲願である憲法改正に向け賛同署名活動を一層盛り上げましょう!!」と呼び掛けていた。署名の集約先は自衛隊東京地方協力本部だった。

 署名集めだけではない。前述「国民の会」が主催した群馬県での改憲集会(5/3)には群馬県隊友会の会長が登壇。「(自衛官の)やる気をそぐような現行憲法は憲法ではない」とぶち上げた(5/4産経WEB)。日本国憲法を心底疎ましく思っている自衛隊の本音がよくわかる。

JCがネット工作

 日本青年会議所(JC)も改憲賛同署名の強力な推進者だ。JCは地方の若手経営者や後継者で構成された公益社団法人で、出身者には麻生太郎や石原伸晃らがいる。なるほど「バカ息子の集まり」と揶揄されるわけだ。

 そのJCが「目指せ全国3000万人賛成投票プロジェクト」と称した事業計画を掲げた。具体的には「憲法を考えるフォーラムの開催」「憲法マンガの普及」「自衛隊感謝ソングの拡散を通した賛成派の投票率向上」などである。ツイッター上に「宇予(ウヨ)くん」という匿名アカウントを立ち上げ、護憲派を口汚く攻撃するネット工作も展開していた(正体がばれ、削除・謝罪に追い込まれた)。

 注目すべきは、JCが吉本興業と包括提携を結んでいることである。吉本芸人の右傾化、出演番組での政権擁護発言には目に余るものがあるが、その裏にはこのようなからくりがあったのだ。

 改憲賛同署名のような「草の根」の組織づくりに加え、芸能人を使ったメディア対策まで…。改憲勢力の組織力と資金力を侮(あなど)ってはならない。国民投票になれば、これがモノを言うのである。

 改憲阻止のポイントはやはり国会発議をさせないことにある。自民党や公明党に「改憲バカの安倍首相に付き合っていたら身の破滅」と思わせるためにも、安倍9条改憲に反対する3000万人署名の大成功が必要だ。日本会議の署名数を超えた程度で手を緩めてはならない。  (M)



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