2018年05月25日 1527号

【みるよむ(484)2018年5月5日配信 イラク平和テレビ局in Japan 標的にされる 少数派宗教と少数民族】

 5月12日のイラク国民議会選挙を前に、少数派の宗教・宗派の信徒や少数民族が標的にされている。脅迫されたり、財産を奪われ殺されることさえあるという。2018年3月、サナテレビは被害を受けた当事者らにインタビューした。

 最初に登場する人権活動家は、1921年のイラク独立以来、イスラム教徒もキリスト教徒も、ユダヤ人もクルド人もアラブ人も、宗教や民族の違いにかかわりなく、みな一緒に暮らしてきたことを強調する。「違う宗教や民族の人たちがいる国、国民にこそ強さがある」。ところが、2003年の占領は、宗教、宗派、民族の違いを利用して人びとを対立させ、多くの惨事を引き起こした。「他の宗派の人たちを標的にするなど犯罪計画と同じ」とこの活動家は断言する。

 最近、「キリスト教徒の医師と妻、その母親が殺される残忍な事件が起こった」と言う。占領から15年たってこの有様だ。その狙いは、選挙が近づく中で、他の宗派の人を見せしめにすれば「地域の住民は自分たちの代表に頼るようになる」というものだ。

 サナテレビは、少数派宗教集団であるサービア教徒の一人に尋ねる。サービア教徒には金細工業者が多い。占領後、この人の金細工店にギャングが押し入った。仕方なしにシリアに逃れ、数年後にようやく戻ってきたが、自分の国であるイラクでいまだに定住する住居さえ持てない。

 別のジャーナリストはシーア派の一つである「12イマーム派」(12人のイマーム<指導者>を認める宗派)の信徒。一方、妻はスンニ派だ。宗教や宗派が違うカップルや家族はごく自然にみられる。このジャーナリストは、2006年占領後最初の選挙の時に「シーア派候補リストに投票しなければ妻は離婚させられるぞ」と脅迫された経験を語る。こうしたやり方で、イラクの各宗派主義勢力や民族主義勢力は選挙の票を得ているのだ。

 イラクのアバディ政権はシーア派を中心とした宗派主義勢力の政府だ。少数派の宗派や民族を標的にすることで市民を分断し支配を続けている。サナテレビは当事者に直接取材して被害の実態を明らかにし、政治の民主化をともに進めようと市民に訴えている。

(イラク平和テレビ局in Japan代表・森文洋)



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