2018年06月01日 1528号

【米大使館エルサレム移転強行/中東和平を潰すトランプ/イスラエル軍による虐殺糾弾】

 イスラエル軍は5月14日、パレスチナのガザ地区で行われた4万人の抗議集会に催涙弾を撃ち込み、逃げまどう市民を狙撃した。死者60人、負傷者約2700人。犠牲者には子どもや女性も含まれている。2014年、2千人以上が殺害されたガザ侵攻以来の大惨事となった。だが、イスラエル軍の銃撃はこの日だけではない。3月末からの7週間で、死者は107人、重軽傷者は1万人を超える。日常化するイスラエル軍による虐殺・虐待を許してはならない。今回特に深刻なのは、中東和平を大きく後退させる事態とともに起きていることだ。

「米入植地」の始まり

 パレスチナでは3月30日から5月15日にかけて「帰還権を求める大行進」が呼びかけられた。1948年5月14日のイスラエル「建国(軍事占領)」によりパレスチナ住民は土地、家を奪われ、70万人以上が難民となった。翌15日は強制追放を心に刻む「ナクバ(大災厄)」の日となった。3月30日は76年の新たな大規模土地収奪への抗議行動を記念する「土地の日」。故郷への帰還権は48年国連総会決議194号で認められたもので、今年は70周年にあたる。

 米トランプ政権は、それに対抗し「イスラエル建国70周年」に、米国大使館をテルアビブからエルサレムに移転、記念式典で祝った。

 イスラエルが80年にエルサレム首都法を議決した時、国連安保理は無効と決議(米国は棄権)した。「国連加盟国はエルサレムに外交使節を置いてはならない」。この決議に反するトランプの行為は、エルサレムを「パレスチナ国家の首都」とするパレスチナ人の希望を踏みにじったのだ。

 パレスチナのアッバース大統領は「移転したのは米大使館ではなく、米入植地の前哨基地だ」と非難した。それは何を意味するのか。

国連決議違反ばかり

 米政府はこれまで「中立の立場」を装い中東和平交渉にあたってきた。イスラエル、パレスチナ両国の共存を前提とした93年オスロ合意に当時の大統領クリントンは仲介役を果たした。16年、イスラエルの入植地建設即時中止を求める安保理決議に、オバマ政権は拒否権を発動せず、棄権。採択させた。

 だが、中東戦略を見直し、中間選挙に向け支持基盤を固める必要があるトランプは違った(本紙1508号参照)。記念式典に送ったメッセージで「イスラエルは主権国家であり、自国の首都を決める権利がある」と明らかにイスラエルの言い分を受け入れた。

 エルサレムは、47年イスラエルとパレスチナの「国境」を定めた国連決議で、「国連による永久信託統治」とされる。ところが48年の第1次中東戦争でイスラエルが西側を占領。67年の第3次中東戦争で東側まで占領地を広げた。その後、占領地にユダヤ人を住まわせるための住宅を次々に建設した。特に東エルサレムをパレスチナのヨルダン川西岸地区から切り離すように入植地をつくり続けている。

 たとえ主権国家であっても占領地を首都にする権利などあるはずがない。入植地拡大で領土を奪い、首都を奪えば国家を奪うことになる。米大使館移転は、軍事占領を正当化し、2国家併存を基本とする中東和平放棄を宣言するに等しい。




調査すら妨害する安倍

 「入植地の建設・拡大は、国際法と安保理諸決議に違反するもの。和平の妨害とみなされることを改めて強調する」。国連の中東和平プロセス特別調整官ムラデノフが3月27日、決議に従わないイスラエルを厳しく非難し、教育サービスや難民支援を行う国連パレスチナ難民救済事業機関の予算が4億4千万ドル以上不足していると訴えた。

 ガザ地区はイスラエルによる封鎖が10年にも及ぶ。インフラ修理もままならず、「96%の水は飲み水に適さない」状態におかれ、慢性的な電気不足、食糧危機、失業率70%という悲惨な状況にある。壁と鉄条網に囲まれ、監獄≠ニ化している。この上に、度重なる銃撃を受けているのだ。

 5月15日緊急招集された国連安保理に、イスラエル軍の武力行使を「国際人権法違反」と非難し、パレスチナ人の安全と保護を保障する国際的要員の派遣、ガザ地区への医療や食料などの人道援助の拡大を求める決議案をクウェートが提出した。21日から協議されるが、すでに米政府の妨害が始まっている。

 国連人権理事会は18日、緊急会合を開き、「独立調査団」を派遣する決議を採択した。米国とオーストラリアが反対、日本は棄権した。安倍首相は虐殺行為が続く5月1日、パレスチナ、イスラエル双方を訪問。中東和平の「橋渡し役」を自称した。だが武器取り引きの上客であるイスラエルを非難することはない。軍事力にものを言わせるのは安倍の望むところ。「橋渡し」など冗談にもならない。

 国連決議を守れ。人道的支援を。日本政府はこの当たり前の要求にこたえるべきだ。



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