2018年06月22日 1531号

【歴史的米朝会談実現を日朝会談へ/「圧力」 戦争路線から転換せよ/東アジアの平和に役割果たせ】

 史上初の米朝首脳会談が行われた。68年にわたる戦争状態終結をうたう板門店(パンムンジョム)宣言を再確認し朝鮮半島の完全な非核化に取り組むと明記した共同文書が調印された。両国首脳に平和体制・核放棄への道を決断させたのは、全世界の平和を望む民衆の力だ。この流れを確かなものにするために、安倍政権に何を突きつけていくべきか。朝鮮(朝鮮民主主義人民共和国)の脅威≠口実にした軍拡・改憲路線をやめろ。国交正常化へ日朝会談実現。無条件対話こそ拉致問題、ミサイル問題の唯一の解決策だ。

封じられた戦争挑発

 トランプ米大統領と金正恩(キムジョンウン)朝鮮労働党委員長の会談が6月12日シンガポールで実現し、両者は共同声明に署名した。1950年に始まる朝鮮戦争の終結をうたう板門店宣言(4/27)が再確認され、平和体制構築への流れが確かなものになった。戦争状態終結と非核化のプロセス、米朝国交正常化に向けた歩みが始まる。

 会談実現までにはさまざまな駆け引きがあったものの、この半年間で劇的な進展を見せた。「核のボタンは机の上にある」(金)「こっちの核のボタンの方が大きい」(トランプ)と応酬しあったのは新年早々だった。一触即発の危機さえ感じさせた。戦争挑発は封じられ、首脳会談実現は画期的な成果だ。もとより国家間の問題は交渉によって解決するのが当たり前だ。それを、戦争屋たちは「対話は無意味」と吹聴してきた。そんな異常事態を世界の民衆は許さなかった。

 朝鮮半島の完全な非核化に向けて残された課題は多い。しかし、残された課題の一つ一つを対話によって解決し、2度と軍事的威圧、経済制裁により民衆の命と生活を脅かすことがあってはならない。

大打撃の安倍路線

 会談の実現に、一貫して障害物となってきたのが安倍政権だった。米朝首脳会談の4日前にねじ込んだトランプとの会談(6月8日)で、安倍は拉致問題の議題化を強く要請した。商売上手のトランプは、数十億ドルの米国産農産物や武器の購入と引き換えに「北朝鮮と拉致問題を議論する」と口にした。

 結局は、当事者である日朝で話し合う以外にないことは誰もがわかる。あえて当事者ではないトランプに言わせ、会談の難航や拉致問題の進展がないことで米朝会談の日本にとっての意義を低めようと狙った可能性は十分ある。最後の最後まで、米朝会談が成功しては困る安倍の悪あがきは続いた。

 安倍は、朝鮮の核・ミサイルを材料に脅威を煽りたて、軍拡路線を突き進んできた。戦争法強行、日米軍事一体化、9条改憲への誘導に使ってきた。「日本を取り巻く安全保障環境は戦後最悪」と繰り返し、「これまでにない重大かつ差し迫った脅威」と「国難突破」選挙キャンペーンにまで利用してきた。米朝会談後の記者会見で、トランプは米韓合同軍事演習中止の検討にまで言及した。日本にイージス・アショアなどのミサイル防衛システムや敵基地攻撃用長距離ミサイルなどを導入する名分は消え去ってしまう。

始めよ日朝の対話

 安倍は、日米会談後の記者会見で拉致問題解決に「直接向き合い、話し合いたい」と語り、「日朝平壌(ピョンヤン)宣言(02年)に基づき、国交を正常化し、経済協力を行う用意がある」と発言せざるを得なくなった。この言葉をポーズに終わらせてはならない。すぐさま日朝会談を始めるべきだ。

 日朝間の問題は「拉致」だけではない。宣言には「日朝間の不幸な過去を清算し、懸案事項を解決し」とある。拉致とともに植民地支配に対する賠償問題が鍵となる。安倍の発言を受け菅官房長官は「拉致、核、ミサイルという諸懸案の包括的な解決なしに国交正常化はあり得ず、経済協力も行わない」(6/8)と強調したが、もはやそんな虚勢が通用する状況にはない。

 「日本側は、過去の植民地支配によって、朝鮮の人々に多大の損害と苦痛を与えたという歴史の事実を謙虚に受け止め、痛切な反省と心からのお詫びの気持ちを表明」したのが平壌宣言だ。日本はかつて朝鮮半島全体を統治する大韓帝国を「併合」、植民地にした。独立運動を弾圧し、朝鮮半島を食料と労働力の供給地として利用し、アジア侵略をはかった。朝鮮民衆は「奴隷状態に置かれた」(ポツダム宣言)。この償いが未解決のままだ。

 何よりも宣言では「相互の信頼に基づく協力関係が構築されることの重要性を確認」し、国交正常化へ「信頼醸成を図るための枠組みを整備していくことが重要」との認識で一致している。安倍はこの宣言に基づき日朝会談を行うと公言した。言葉通りに、直ちにあらゆる敵対行為をやめなければならない。

世界の人びとの願い

 なぜ米朝会談が成功したのか。言うまでもないが、トランプが平和を望んだわけではない。シリアを爆撃し、イスラエルの軍事占領を支援し、イランの核合意を破棄する。こんな「壊し屋」が対話に応じたのは、中間選挙勝利やロシアゲート、セクハラ疑惑隠しの狙いがあると言われている。だが重要なのは、朝鮮との和平を進めなければ民衆の支持も国際世論の支持もまったく得られないことだ。「会談中止」をほのめかしたとたん、安倍を除いて世界中から批判が起こったことはトランプも忘れないだろう。

 安倍政権に対しても同じように圧力≠かける必要がある。政府の言う「国益」と民衆の利益とは別物である。「拉致、核、ミサイルの解決が先」と繰り返す政権では和平の進展はない。民衆の利益とは正反対だ。東アジアの平和を願う世界の人びととともに、戦争・改憲を進める安倍政権退陣の声を強めよう。

米朝首脳会談の共同声明(要旨) 2018.6.12

1.米国と朝鮮は、平和と繁栄を求める両国国民の願いに従って、新たな米朝関係の確立に取り組む。

2.米国と朝鮮は、朝鮮半島の持続的で安定した平和体制の構築に共に取り組む。

3.2018年4月27日の板門店宣言を再確認し、朝鮮は朝鮮半島の完全な非核化に向け取り組む。

4.米国と朝鮮は、戦争捕虜/行方不明兵の遺骨回収に取り組む。その中には、すでに特定されている遺骨の即時帰還も含まれる。

日朝平壌宣言とは

 2002年9月17日、小泉純一郎首相(当時)が平壌を訪れ、金正日(ジョンイル)国防委員長(当時)と日朝首脳会談を行った際に調印された宣言文。拉致問題の解決、植民地支配の過去の清算、日朝国交正常化交渉の開始などが盛り込まれた。同年10月中に交渉再開としながら、拉致被害者の「一時帰国」の約束を反故(ほご)にし頓挫させた。以後信頼関係は崩れ、凍結された状態となっている。

 
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