2018年06月22日 1531号

【「高プロ」ニーズもでっち上げ 命を奪う「働き方」法案 安倍もろとも葬り去ろう】

 5月31日、自公与党と維新によって衆院通過強行された「働き方改革」一括法案。6月4日から参院審議が開始されている。同法案の「高度プロフェッショナル制度」(高プロ)をめぐる重大な偽装が浮上している。裁量労働制のデータねつ造と同じく、高プロの「労働者ニーズ」でっち上げである。

 裁量労働制拡大をめぐっては、法案作成の根拠となった厚生労働省の労働時間データに大量の虚偽データが含まれていた。同省は2割を超えるデータを削除。再集計すると年間残業1000時間超の三六(サブロク)協定(法定労働時間を超えて時間外労働させる場合の労使協定)を結んだ事業所で、その通り残業させた事業場は、旧データの3・9%から48・5%に跳ね上がった。高プロの対象の一つである研究開発業務では、残業時間が大臣告示による上限(月45時間、年360時間)を超えている労働者は30%から50%に増えた。

どこにもない必要性

 データねつ造によって裁量労働制拡大は同法案から削除された。しかし、政府は高プロを「成果で評価される働き方を希望する方のニーズに応える制度」などと説明し野党の削除要求を拒んだ。政府は、適用が見込まれる働き手に対するヒアリングで全員が高プロに前向きな意見だったことを「ニーズ」の根拠とする。ところが、聞き取り対象者はわずか12人。そもそもデータとしての体をなさない。

 さらに6月5日の参院厚生労働委員会で、12人のうち9人は今年2月1日にヒアリングしていたことが判明。1月31日の参院予算委で、野党に「働き手のニーズがあるのか」と問われ、加藤勝信厚労相が「自分のペースで仕事をしていける働き方を作ってほしいという要望を受けた」と述べた翌日のことだった。

 残り3人もでたらめだ。厚労省は「制度設計ができ上がっていなかった」(山越敬一労働基準局長)時期に実施したと説明していたが、これも実際は、政府が2015年2月労働政策審議会に高プロの制度案を示した後の3月だった。7日の参院厚労委で社民党福島みずほ議員は「ヒアリングは茶番。アリバイを作るためではないか」と批判した。

 厚労省労働基準局労働条件政策課によるヒアリング調査は意図的に「労働者ニーズ」をねつ造する偽装工作であった。厚労省が企業に対し「高プロについて労働者の意見を聞きたい」と協力依頼。同意を得た企業に厚労省職員が訪問し、その一室を借りて企業側が選んだ労働者と意見交換した。調査には人事担当者が同席していた。高プロ導入を熱望する企業が調査に応じ、都合の良いことを言う労働者を選定し、企業側が同席。企業による企業のためのヒアリングで労働者の本音が聞けるはずがない。高プロの「労働者ニーズ」は全くのでっち上げだ。

 裏を返せば、ここまで作為的な調査方法でも、「高プロを望む」とする労働者の声などほとんど集まらなかったということだ。高プロの立法事実(法律や条例の必要性や正当性を根拠付けるもの)が根本から崩壊しているのだから、法案は撤回しかない。

過労死遺族の声を聞け

 安倍首相は6月4日の参院本会議で「適用を望む人が何人いるから導入するというものではなく、多様で柔軟な働き方の選択肢として整備するものだ」と、従来の説明を軌道修正する答弁を始めた。

 高プロは、経営者や学者らでつくる産業競争力会議で2014年に制度創設の意見が出され、政府が導入方針を決めたもの。労働者ニーズなどひとかけらも無く、労働法規制の撤廃を求める企業側からのニーズでしかない。

 衆院厚労委の参考人となった「全国過労死を考える家族の会」代表世話人であり、自身も夫を過労自殺で亡くしている寺西笑子さんは次のように訴えた。「そもそも働き方改革の関連法案は、安倍総理大臣が委員長になり、政府主導で推し進めてきたものです。先進国日本と言われている、その政府の先頭に立っている方が、命に関わる法案を、丁寧な審議をせず、過労死遺族の声を聞かず、教訓を学ぼうとしない。世論の大半が反対している法案を強行採決する暴挙は、やめてください」

 安倍は面会を求める家族の会と会うことすら拒み、衆院強行に踏み切った。一括法案の参院採決を許さず、安倍政権もろとも葬り去ろう。



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