2018年06月22日 1531号

【未来への責任(251) 釜山「徴用工像」が問いかけるもの】

 日本のメディアは韓国内で広がりを見せている「徴用工像」の建立運動が新たな日韓の「火種」になると報じている。5月1日、市民団体が釜山(プサン)の日本領事館前に「徴用工像」を設置しようとしたのを警察が阻止し、韓国政府も移転を促した。産経新聞は「韓国政府もやればできるのである。文在寅(ムンジェイン)政権は残る慰安婦像も責任を持って撤去してもらいたい」と煽っている。

 しかし、文大統領は被害者の請求権は消滅していないと明言している。三菱重工と日本製鉄(現・新日鐵住金)に強制連行された元徴用工被害者が損害賠償を求めて韓国で訴えた裁判で、2012年5月に大法院(最高裁)は被害者の損害賠償請求権を認めて高等法院(高裁)へ差し戻し、差し戻し審では損害賠償支払いが命じられた。文大統領は「日本軍慰安婦と強制徴用など韓日間の歴史問題の解決には、人類の普遍的価値と国民的合意に基づく被害者の名誉回復と補償、真実究明と再発防止の約束という国際社会の原則がある。両国間の合意があろうとも、徴用者、徴用された強制徴用者個人が三菱をはじめ相手会社に対して持つ民事上の権利はそのまま残っているということが韓国の憲法裁判所や大法院の判例である」と記者の質問に答える形でこの判決を支持した。

 大法院判決は1910年の韓国併合自体が法的に「不法・無効」として日本の「植民地支配責任」を法的判断の俎上(そじょう)に載せ、植民地支配によってもたらされた個人の損害は回復させられるべきであるとした点に大きな意義があった。

 一方、日本政府も1992年当時の柳井条約局長の国会答弁以来一貫して日韓請求権協定によって消滅したのは個人請求権ではなく外交保護権であると繰り返し説明してきた。

 2007年4月の中国人強制連行西松事件の最高裁判決は「請求権の『放棄』とは、請求権を実体的に消滅させることまでを意味するものではない」との判断を示した。つまり日本政府は日中共同声明や日韓請求権協定によって個人の請求権が消滅したとしているが、それはあくまでも外交保護権の放棄=「政治的解決」であり元「慰安婦」や強制連行被害者の被害回復の権利は消滅していないということを意味している。

 韓国での裁判は会社側が大法院に上告したことで6年が経過し、現在もなお確定していない。大法院判決をかつての被支配国のナショナリスティックな判決としか評することのできない日本社会の「宗主国意識」を変えない限り「過去清算」は終わらない。

 私たちは文大統領の3・1光復節の次の言葉を肝に命じたい。「慰安婦問題の解決においても加害者である日本政府が『終わった』と言ってはいけません。戦争の時期にあった反人倫的な人権犯罪行為は終わったという言葉で蓋(ふた)をされるものではありません。不幸な歴史であるほどその歴史を記憶し、その歴史から学ぶことだけが真の解決です。私は日本が苦痛を加えた隣国たちと真に和解し平和共存と繁栄の道を共に歩いていくことを願います」

(日本製鉄元徴用工裁判を支援する会 中田光信)

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