2018年06月22日 1531号

【どくしょ室/広告が憲法を殺す日 国民投票とプロパガンダCM/本間龍 南部義典著 集英社新書 本体720円+税/改憲CMがテレビを占拠】

 本書の著者の一人、元博報堂社員で広告業界を知り尽くす本間龍は、憲法改正の国民投票法の内容を知って「これでは、まるでB29爆撃機の襲来に竹槍で戦うようなもの」と表現した。本書は、憲法改正発議後の国民投票運動は改憲派が圧倒的有利となっていると警告する。

 国民投票法は2007年、第1次安倍政権の下で成立した。同法では、憲法改正案の国会発議後60日から180日以内に国民投票を実施するとしている。

 改憲発議後は賛成派、反対派が自由に投票を呼びかける広告を出すことができる。ただし、投票14日前以降は投票勧誘広告が禁止される。投票前14日以降であっても「私は改憲賛成です」といった意見広告は認められるとされている。

 法案審議に当時の民主党秘書の立場でかかわった南部義典は、「自由闊達(かったつ)な論議の保障」「言論の自由の尊重」のため、広告規制に反対したのは野党の方であったと振り返る。しかし、長らく広告業界にいた本間は「自由の名の下に弱肉強食のルールを生み出した」と批判している。

 日本の広告業界のトップ企業は電通である。電通グループの年間売り上げは約5兆円。テレビ・ラジオ・新聞・雑誌のすべてで1位を占め、2位の博報堂グループの4倍にあたる。

 この電通が自民党の宣伝広告を一手に請け負っている。その関係は古く、自民党結党以前の自由党の広告を引き受けたことから始まる。以来、政権と結びついた電通は巨大企業に成長した。東京オリンピックの広告利権を電通が独占していることでも政権との癒着ぶりがわかる。

 放送局の収益の大部分はCM収入である。放送局は確実にCM枠を埋めるために、広告代理店にあらかじめ放送枠を販売している。その放送枠では、1社の広告代理店のCMしか流れないのだ。さらには、番組内容まで広告代理店の意向が反映されることになる。

 本間は「ゴールデンタイムの放送枠は電通がほとんど買い占めている。改憲が発議されれば、電通制作の賛成CMがゴールデンタイムに繰り返し流され、反対派CMは深夜や早朝の視聴率が低い時間帯にしか流れない」と予測する。さらに、かつては民主党と広告契約していた博報堂が反対広告を制作するかどうかは不明だと言う。なぜなら、自民党を中心とする改憲派の資金力は反対派をはるかに上まわり、博報堂など他の代理店にも働きかけることが予想されるからだ。

 本書は、現国民投票法ではとうてい賛成、反対をめぐる公正な論議は期待できないとし、有償CMを全面禁止するイギリス、フランス、イタリアの例を紹介して法の改正の必要性を訴える。本書の警鐘から、何より改憲発議を許してはならないことの重要性がリアルに読み取れる。(N) 
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