2018年06月29日 1532号

【米朝会談ケチつけ報道/朝日も読売も「具体策なし」で一致/安倍政権の圧力路線に追随】

 「非核化約束、具体策なし」―米朝首脳会談を伝える大手新聞の見出しは、ほとんど同じだった。共同声明に「完全で検証可能な不可的非核化(CVID)がない」と批判した。会談の成果をCVIDの有無ではかるのは、圧力路線への回帰だ。戦争の種が一つでも減れば、歓迎するのが当然ではないか。日本のマスコミの論調は、戦争の被害を受ける市民感覚からも世界の見方からも大きくずれている。

「政治ショー」扱い

 歴史的な米朝会談。マスコミは両首脳の一挙手一投足を伝え、米大統領トランプ対朝鮮労働党委員長(本当は国家を代表する国務委員長)金正恩(キムジョンウン)の「政治ショー」に仕立てた。どちらが勝った、負けたと評定に終始している。

 今年1月、米朝の挑発合戦により、人類絶滅までの残り時間を示す「世界終末時計」(米科学誌『原子力科学者会報』)は2分をさした。米ソが水爆実験を行った65年前と同じ、過去最短となった。この危機をどう脱するのか。会談で「取り引き」されるのは世界の人びとの命だ。権力者の勝ち負けの問題ではない。

 会談を伝える新聞各紙を見ると、ほとんど同じ見出しが並ぶ。「米朝初会談/声明具体策示さず」(朝日)「初の首脳会談共同声明/具体策は示さず」(読売)「共同声明具体策はなし」(毎日)「時期や検証先送り」(日経)。「非核化」は確認されたが、実現への具体策がないとケチをつける(具体策がないのはトランプの「体制保証」も同じだが、こちらは不問)。

 会談は失敗だったのか。社説を見る。「非核化への重大な責任」と題した朝日新聞は「2人が交わした合意は画期的と言うには程遠い薄弱な内容だった」と切り捨て、「最大の焦点である非核化問題について具体的な範囲も、工程も、時期もない」と不満を述べる。今後できなければ「トランプ外交は称賛されない」とマイナス評価だ。

 「読売」社説の見出しは「北の核放棄実現へ交渉続けよ/『和平』ムード先行を警戒したい」。会談は「評価と批判が相半ばする結果だった」。半分でも評価したのは、安倍応援紙なりの忖度(そんたく)≠ネのだろう。「抽象的な合意しか生み出せなかったのは残念」と抑えたトーンだが、結論は同じだ。

世界は「歓迎」なのに

 政府・メディアが言うCVIDは様々な問題を含んでいる。完全(Complete)かつ検証可能(Verifiable)で、不可逆的(Irreversible)な非核化(Denuclearization)。2度と復元できないよう、誰もがわかるようにすべての核を廃棄する。最大の問題は誰がどのように検証するのかだ。

 2003年のイラク戦争では、サダム・フセイン大統領(当時)が大量破壊兵器の査察を拒んだとして攻撃された。安保理決議に基づき設置された国連監視検証査察委員会。「どこかに隠している」と疑いをかければ、核関連施設以外であっても立ち入りを要求できる。好きな時に、いつまでも続けられる。米国は委員長に「イラクは非協力的」との報告書を書かせた。「検証・査察」は米軍による侵略の常套(じょうとう)手段である事実を忘れてはならない。

 「CVIDの合意がなければ、首脳会談の意味はない」のではなく、開始される「非核化プロセス」を促進すればよい。「北にだまされるな、譲歩するな。圧力をかけ続けろ」では、会談以前の状態に戻れと言うに等しい。

 戦争状態にある両国首脳が「核ミサイル」を突きつけ合う関係から「新たな関係」をつくろうと署名し、信頼醸成の道を進み始めた。これが会談の最大の成果ではないか。全世界が和平への一歩を歓迎する中で、「警戒せよ」ばかりをわめきたてている日本のメディアは余りに異常だ。

沖縄紙は「支持」表明

 日常的に基地被害を被っている沖縄では、会談の成果を現実的なものとして評価している。琉球新報の社説は「朝鮮半島非核化声明/新基地の必要論崩れる」。トランプが「対話継続中は、米韓軍事演習を中止する意向を示した」ことをあげ、支持を表明した。演習中止は朝鮮半島の緊張緩和につながり、「普天間飛行場を維持し続けることや、名護市辺野古への新基地建設は大義名分を失い、必要なくなる」からだ。「平和共存の枠組みづくりに水を差すような新基地建設は中止すべきだ」との主張は、全く正しい。

 ちなみに本土各紙は、演習中止、基地建設をどう見ているか。「米韓軍事演習の見直しまで示唆したことは北朝鮮にとって大きな成果だろう」(朝日)。「平和に前のめりなあまり、譲歩が過ぎる」(読売)。軍事演習中止は朝鮮を利するだけ、やめるなと言うのである。これでは安倍の代弁者だ。当然、基地建設中止を求める社説は一切ない。

 トランプ自身、軍事演習は「危険な挑発行為」と認めた。金正恩の殺害を目的とする軍事演習を中止するのは、話し合いの場を持つ前提条件である。「日米は100%ともにある」という安倍政権は最大の挑発行為である新基地建設を中止すべきだ。  (T)

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