2018年07月06日 1533号

【自民党防衛大綱提言/東アジアの緊張緩和に逆行/縦横無尽の海外派兵狙う】

 劇的に進む朝鮮半島緊張緩和に背を向け、軍拡路線を進む安倍政権。自民党は次期防衛大綱・中期防に向けた提言を安倍首相に提出した。それは、日本が「自衛」の名で侵略戦争を自在に展開する態勢を求めるものだ。この期に及んでなお戦争推進路線を強化する動きを許してはならない。

平時から戦争体制づくり

 5月29日、自民党は新防衛計画大綱及び中期防衛力整備計画策定への提言を決定。安倍首相に手渡した。

 その眼目はサブタイトル「『多次元横断(クロス・ドメイン)防衛構想』の実現に向けて」に示されている。

 提言は、「クロス・ドメイン」を「自衛隊の能力を空間・地域を跨(また)いで総合・複合的に結集させ、事態に対応する備えを構築すること」と定義する。その実現に向けて、自衛隊の統合運用をさらに推進することを求める。

 具体的には、陸・海・空の戦闘領域はもとより、宇宙・サイバー空間などや、水陸両用戦、情報、兵站(へいたん)と、戦闘を継続するために必要なあらゆる人的・物的資源を統合幕僚部が戦時に一元運用することを目指し、平時から国家安全保障会議等政府機関のもとに戦争体制に糾合しようとするものだ。

 この人的・物的資源には、自衛隊の能力のみならず、あらゆる政府機関、地方自治体、民間企業を含む。例えば「サイバー防衛体制の強化」では「高度な技能・知識・経験を持つ部外人材の登用・契約等、官民の活発な交流が実現するような人事制度を検討する」といった具合だ。

「自衛」の範囲を拡張

 憲法第9条の制約のもと政府は常に「自衛」を口実に軍拡を進めてきた。安倍政権以前の「自衛」は、建前とはいえ外国からの武力攻撃に対するものだった。だが、安倍は憲法解釈の変更による戦争法制定で「自衛権」の範囲を拡大。武力攻撃に至らない「グレーゾーン事態」なるものを作り上げ、政府の解釈次第でどのような事態も「自衛権発動」として開戦できる法整備を進め、9条改憲にまで手を付けようと画策している。

 提言は、その「自衛」の範囲を一層拡張することを求めている。

 ミサイル防衛に関する項では「ミサイル攻撃が発生した場合発射能力を減殺する目的で敵の基地を叩く『敵基地攻撃』については、憲法上も国際法上も認められない『先制攻撃』と一線を画した概念であり、憲法も一定の条件下において許容している」と述べ、「巡航ミサイルをはじめ『敵基地反撃能力』の保有について検討を促進する」とした。 「敵基地攻撃能力」を「敵基地反撃能力」と言い換えることで、印象操作し、侵略兵器の保有を正当化する。

 これまで政府が「攻撃兵器」であり保有することができないとしてきた空母についても、陸上航空基地が攻撃により破壊された場合、災害で利用不能になった場合の航空機の発着拠点確保という「自衛」や国民保護名目での解禁、艦上離発着可能なF―35B戦闘機配備を求めている。

 また、「サイバー防衛体制の強化」では「サイバー攻撃に適切に対処できるよう、わが国に対するサイバー攻撃のみによる攻撃について、武力攻撃事態と認定して自衛権を発動することなど、法的論点を整理する」と提起する。コンピューターへの不正アクセスなどいわゆる「サイバー攻撃」と呼ばれるものは、提言も「部外高度人材の登用」を提案するように専門家でなければその有無や実行者は判別できない。「サイバー攻撃」を武力攻撃事態と認定し「自衛権」を発動してしまえば、国会も国民も検証するすべがない。

 際限のない「自衛」の範囲拡大は、過去の戦争がそうであったように、自衛の名による侵略戦争の道を大きく開く。

 極めつきは「先進的な装備体系の導入による対処能力の強化」の項だ。水陸両用戦能力強化、長距離打撃力整備を求める一方で「自衛隊の一体的な戦力発揮に資する陸海空戦力の強化を行う」とする。戦力不保持を明記した憲法に違反することをごまかすため、歴代自民党政権も安倍も、自衛隊を「戦力ではなく最低限の実力」としてきた。だが、提言は自衛隊を公然と「陸海空戦力」と呼んだ。

緊張緩和阻む軍事同盟強化

 提言は、日米軍事同盟強化だけではなく、東南アジア諸国との軍事同盟強化を求めた。日米安保とは別に「友好国との協力及び安全保障協力の推進」として、豪・印・英・仏やASEAN(東南アジア諸国連合)との協力を推進するとした。その手段は「戦略的寄港やODA(政府開発援助)による協力」だ。PKO(国連平和維持活動)や海賊対処など自衛隊の海外展開も維持・推進するとしている。

 提言が求めるのは、「クロス・ドメイン防衛構想」と侵略兵器調達による自衛隊の戦争遂行能力拡充であり、東アジア・東南アジアを中心にインド洋〜太平洋に至る地域での日本の軍事的影響力強化だ。

 政府は、日米軍事同盟を「米軍は矛、自衛隊は盾」と称することで軍拡への批判をかわしてきた。提言のように自衛隊を「戦力」と呼んではばからない好戦勢力は、矛と盾を持つ自衛隊が縦横無尽に海外派兵を遂行する戦争国家づくりを企てているのだ。

 安倍政権による政策の基本骨格「骨太の方針2018」(6/15発表)でも、「防衛力の大幅な強化」が強調されている。今、東アジアで進む和平への動きに逆行するこうした軍拡と緊張激化策動を許さず、軍縮と対話を強く求めることが必要だ。

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