2018年07月13日 1534号

【米朝首脳会談から1か月 対話による解決を妨害するな 平和と非核化を駆け引きに使うな】

 米朝会談から間もなく1か月。合意された朝鮮半島の非核化と安全の保証(=平和協定)への取り組みは、どう進んでいるのか。何が進展の邪魔をしているのか。そんな疑問に答えます。

Q 会談後、非核化への動きが伝わってきません。否定的な見方が増えていきそうです。

 核廃棄に向けた具体的なプロセスはまだ明らかにされていません。だからと言って、「米朝会談はたいして意味がなかった」と言うのは誤りです。「核戦争」さえ辞さない状況にあった両国政府が対話により問題の解決に合意したこと。これが最大の成果であり、忘れてはならないことです。

 米国トランプ大統領は、8月に予定していた米韓軍事演習の他、3か月以内に実施する2つの合同演習を中止しました。朝鮮民主主義人民共和国(朝鮮)金正恩(キムジョンウン)国務委員長は会談に先立ち、核やミサイル実験場の一部を破壊し、新たに大陸間弾道弾開発に使用した最大の発射場廃棄を約束しました。ポンペオ国務長官は米下院の委員会で「『完全な非核化』の意味は、米朝で全く誤解の余地はない」(6/27)と語り、朝鮮戦争時の米兵の遺骨も「そう遠くない将来」に回収できる見通しを示しています。

 「すぐにも始まる」非核化協議や「発射場の破壊」が進んでいないのは事実です。しかし、「敵対的対応をとらない」確認は有効で、効果を上げています。

 6月25日は、68年前、朝鮮戦争の開戦日。昨年まで「米帝反対闘争の日」として米国非難を繰り返していた朝鮮ですが、今年は違いました。同日、韓国との軍の通信回線復旧の協議を行い、26日に鉄道、28日に道路の南北連結を協議しています。7月には朝鮮の山林復旧も議題になります。軍事的緊張緩和が、南北関係の急激な進展につながっています。韓ロ会談(6/21)でも、朝鮮半島からロシアにかけた経済協力がテーマにあがっています。

 朝鮮半島の非核化は米朝2国間だけで実現できる問題ではありません。周辺国政府も同じような平和的解決の環境をつくりだす努力が必要です。日本政府も日朝交渉をすぐさま始めるべきです。


Q 朝鮮戦争の平和協定締結に中国が後ろ向きだと報道されましたが、なぜでしょうか。

 米中貿易戦争の「交渉カード」との見方があります。非核化・平和協定は米朝間だけの問題ではないことを示す1例です。中朝関係を振り返ってみましょう。

 中朝間には1961年に友好協力相互援助条約という軍事同盟がむすばれています。「両国に共通の利害関係があるすべての重要な国際問題について」協議することになっています。米朝会談を挟んで3回、節目の時に中朝会談が行われました。その都度、米朝関係に揺れ≠ェ生じています。

 中国習近平(シーチンピン)国家主席は3月北京での会談で、朝鮮の「非核化の目標と対話による解決」に賛同。南北首脳会談(4/27)直後の大連では「段階的非核化」を示唆(5/9)。その後、朝鮮は米政府の「リビア方式」(後述)発言や南北会談で「理解を示した」米韓軍事演習を問題化するなど「強い姿勢」に転じます。米韓軍事演習は中国に対する軍事圧力にもなっているからです。一時、米朝会談実現が危ぶまれました。

 3回目は米朝会談後の6月20日。その前の15日、トランプ大統領が中国製品500億ドル相当に関税追加を承認しました。中国も関税の報復措置をとるつもりです。さらにトランプの望む「朝鮮戦争の終結・非核化=ノーベル平和賞」への嫌がらせとして、時間をかけ、じらしていると見られています。

 朝鮮戦争で中国が送ったのは「志願兵」。実際は、朝鮮人民軍を指揮するなど、間違いなく戦争当事者です。平和協定には何らかの肩書の人物が署名することになるでしょう。「朝鮮戦争年内終結宣言」は南北会談の合意。当然中国も了解済みです。必ず実現するし、させなければなりません。

 米中に限らず経済対立が軍事緊張激化につながることを避けなければなりません。軍事的威圧の道を選ばせないことが肝心です。

Q 安倍政権は朝鮮非核化への費用を負担すると言っています。評価していいのでは。

 安倍政権は朝鮮に対する敵対的姿勢を改めていません。朝鮮へ修学旅行に行った高校生の土産物まで没収しています。朝鮮を口実にしたミサイル防衛システム(イージス・アショア)導入策動を続けています。こうした姿勢のもとで、国際原子力機関(IAEA)の核査察費用の負担話が先行していることに悪質な意図を感じます。

 IAEAは核廃絶とは全く無縁で、核利用を促進する欧米の原子力マフィアが牛耳っている機関です。日本は毎年50億円以上拠出し、事務局長は天野之弥(ゆきや)、原発推進の外務官僚あがりです。査察協力も、日本の核技術者を朝鮮に送り込むことを狙ったものでしょう。

 問題は、「まず、北の核をなくせ」と主張する「核査察」が、朝鮮が最も警戒する「リビア方式」を強いるものだということです。核放棄完了後に制裁を解除する方式で、2003年、リビアの独裁者カダフィ大佐が合意しました。後年、カダフィは米軍に殺害されます。金正恩は、核放棄したため米軍に攻撃されたと教訓にしているのです。米朝会談実現には「リビア方式はとらない」とのトランプの約束が不可欠でした。安倍政権がこの問題を形を変えて持ち出すのは、合意を御破算にしようとする悪意があるとしか思えません。

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 米国の女性平和団体コードピンクは米朝会談を歓迎し、来る平和条約締結に向け、選挙区の上院議員に働きかけるよう呼びかけています。条約には議会の承認がいるからです。私たちも、朝鮮に対する敵対的な姿勢をやめさせ、無条件で国交交渉への道を開くことを求めていかなければなりません。何より、平和への環境は市民一人ひとりの行動がつくりだすものだからです。

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