2018年07月13日 1534号

【どくしょ室/ルポ 児童相談所 大久保真紀著 朝日新書 本体820円+税/すべてが足りない保護の現場】

 親による子どもの虐待死が後を絶たない。虐待死が報じられるとき必ずと言っていいほど児童相談所の対応が問題とされる。本書はその児童相談所(児相)の実態と問題点に迫ったルポとなっている。

 全国には現在210の児相がある。児相は子どもに関するあらゆる相談を取り扱い、子どもの一時保護の権限を持つ。一時保護には親の同意に基づき行う保護と児相の判断で強制的に行う職権保護がある。2016年の統計で全国4万387件の一時保護があり、そのうち24%が職権保護で、保護の理由の半数以上が虐待だという。

 虐待は、身体的虐待、ネグレクト(育児放棄)、子どもの目前でのDV(家庭内暴力)、そして「魂の殺人」とも表現される性的虐待など多様だ。虐待を受けた子どもたちは「自分が悪い」と自己評価が低く表れる場合が多く、さまざまな発達障害を抱えるケースもある。親の側も、自身が子どもの時に虐待を受けていたケースが多い。

 虐待の通告は、子どもの異常に気づいた保育園、学校や医療機関からもたらされることが多い。ただ、一方で親との関係を悪くしたくないと通告が遅れることも少なくない。

 虐待死が社会問題化する中で児相には、虐待通告を受けてから48時間以内に「安否確認」を行うことがルール化された。児相は限られたワーカーで対応せざるを得ず、一時保護では親との対応に緊張を強いられる。特に職権保護は、子どもの安全を最優先させるためとはいえ、親に激しく抵抗され、包丁を突きつけられることさえある。夜遅くまでかかることは日常だ。

 ある30代の中堅ワーカーは一人で約70件の事案を担当する。日々家庭訪問や一時保護した子どもの面接など、ケースのフォローを続ける。このワーカーは親への対応を大切にすると言う。面会時間を確保し親子関係が切れないように配慮したり、子どもに対する接し方を親に指導したり、「感情のコントロール」を学ばせたりしている。すべては「子どもを家に戻すため」の努力だが、当該のワーカー自身の労働・生活もぎりぎりなのだ。

 本書では、虐待が増加する背景にある貧困の問題に直接の言及はない。しかし、登場する個々の例から、その家庭自身が困難な生活状況にあることもうかがえる。

 本書を通じて、子どものセーフティーネットである児童相談所ワーカーたちの過酷な実態が浮かび上がる。背後にあるのは慢性的な人手不足だ。直接、虐待などの対応に当たる児童福祉司は全国で3115人(2017年)にすぎない。この人員で12万件超、直近の10年間で3・3倍に増えた虐待に対応している。子どもの命にかかわる分野に、人を、予算を回す政策転換が急を要することが本書から読み取れる。     (N)
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