2018年07月20日 1535号

【「産まないは勝手な考え」/自民・二階幹事長のデタラメ発言/アベ改憲案の本音がここに】

 「子どもを産まないほうが幸せじゃないかと勝手なことを考える人がいる」。自民党の二階俊博幹事長が少子化問題についてこう述べた。「今は食べるのに困る家はない」とも言った。発言の底流にあるのは、家族の扶養義務を強調し社会保障費の削減を狙う、自民党改憲草案の考え方である。二階は安倍自民党の本音を語ったのだ。

政府の責任を棚上げ

 問題の発言は6月26日、東京都内で行われた講演会で飛び出した。いわく「戦中・戦後のみんな食うや食わずの時代も、『子どもを産んだら大変だから産まないようにしよう』と言った人はいない。このごろは『産まない方が幸せじゃないか』と勝手なことを考える人がいる」。

 さらに「この国の一員としてこの船に乗っているんだから、みんなが幸せになるためにたくさんを産み、国も栄えていこうじゃないか」「食べるに困る家は実際はないんですよ。こんな素晴らしい幸せな国はないんだから」などと語った。

 ツッコミどころが多すぎて頭がくらくらするが、順を追って批判したい。まず、どのような生き方をするかは、それぞれの人が選ぶことである。「産む産まない」は個人の自由であり、国家に強制される筋合いはない。

 もちろん政府には出産・育児をしやすい環境を整える責務があるが、日本はかなりお寒い状況にある。このことは6月19日に閣議決定された2018年版の「少子化社会対策白書」をみても明らかだ。

 白書は、日本、英国、フランス、スウェーデンの4か国で行った調査を紹介している。自分の国が「子どもを生み育てやすい国だと思うか」との問いに「そう思う」と回答した割合が最も高かったのは、スウェーデンで97・9%。フランス70・6%、英国70・3%と続く。最下位の日本は46・6%だった。

 なぜ「子どもを生み育てやすい国」だと思うのか。スウェーデンは公的支援制度の充実を理由にあげる人が多かった。「育児休業中の所得補償が充実しているから」86・99%、「教育費の支援、軽減があるから」79・6%、「各種の保育サービスが充実しているから」72・4%等々。

 これと正反対の傾向を日本は示している(表参照)。子育ての不安要素を聞いた調査では「経済的にやっていけるか」63・9%がダントツの1位であった(内閣府「結婚・家族形成に関する意識調査」2014年度)。



 こうした現状を踏まえれば、今の日本で最優先すべき少子化対策は何か、おのずと結論が出る。経済的な不安を取り除くこと、公的な子育て支援策を充実させることである。そうした政府の責任を二階は完全に無視している。

貧困化の実態を無視


 貧困問題についての認識もデタラメだ。政府が対策を講じるべき貧困は日本には存在しないと言わんばかりの言い草である。もちろん事実は違う。昨年11月に生活保護を受けた世帯は164万2971世帯。7か月連続の増加で、昨年8月以降、過去最高を更新し続けている。

 子どもの貧困化も進行しており、17歳以下の約7人に1人(13・9%)が相対的貧困状態にある(2015年度)。ひとり親世帯の貧困率は過半数を超えている(50・8%)。「今晩、飯を炊くのにお米が用意できない家は日本にはない」と二階は言うが、現実無視もはなはだしい。子ども食堂の取り組みが広がっているニュースを見たことがないというのだろうか。

 実質賃金の目減り、不安定雇用の増加、そして社会保障給付の削減…。日本は安心して結婚することも、子どもをつくることもできない社会になってしまった。こうした政府にとって都合の悪い事実を二階は「実際はない」ことにしたいらしい。

国家の道具扱い

 二階発言から透けて見えるのは、“自分勝手な風潮は困りもの。昔は国に頼ったりしなかった”という自己責任論である。これは彼の専売特許ではない。自民党の憲法改正草案の基本となる考え方だ。

 たとえば、家族の助け合いを義務づけた草案24条である。党内の議論では「親子の扶養義務についても明文の規定を置くべきだ」との意見もあったという。家族による扶助義務を優先させれば、国は社会保障予算を大幅に削ることができるというわけだ。

 安倍応援団の改憲組織・日本会議はもっと露骨だ。「家族とか地域のつながりが薄くなったせいで、何か困ったことがあっても、すぐに生活保護とか、国や政府に頼るしかないからね。昔はそれが、家族とか親戚だった」(百地章監修『女子の集まる憲法おしゃべりカフェ』)。

 「家族の絆」や「伝統的子育て」を礼賛する安倍一派はかくも胡散(うさん)くさい。連中は少子化を「国難」と呼び、日本の国力を維持するために子どもをたくさん産めと言う。しかし、低賃金・長時間・不安定労働を抜本的に改善するつもりはない。子育て支援策を拡充する気もない。安倍自民党は人間を国家の道具としかみていない。二階発言はその証なのである。   (M)

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