2018年07月27日 1536号

【原発事故 津波対策放棄 濃厚に/土木施設担当社員が証言/防潮堤建設の工程表作った/東電福島原発刑事訴訟】

 強制起訴された東京電力旧経営陣3人の第20回公判が7月11日、東京地裁であった。土木施設工事を担当していた東電社員が出廷し、「2008年7月、沖合防潮堤の着工に向けた工程表を作成した」と証言。最大15・7mと予測された津波の襲来に備え、沖合に防潮堤を建設する計画が担当部署で立案されていたにもかかわらず、経営トップの判断で見送られた疑いがきわめて濃厚になった。

 社員は08年6月、武藤栄元副社長から防潮堤設置に必要な許認可手続きを調べるよう指示され、最短で16か月後に着工できるとする工程表を作成していたという。工程表には国・県への説明に2か月、海浜変形予測に3か月などと記し、着工後は1年で600m建設が進むと想定した。

 建設費は数百億円規模と見積もった。「それまでの経験に基づく計算で、深さ1mの場所に長さ1mの壁をつくるのに100万円。水深20mの沖合に長さ2000mなら400億円になる」として導き出した。

 しかし、こうした工程表や見積もりが採用されることはなかった。08年7月31日の打ち合わせで武藤元副社長が、すぐには対策を行わず、土木学会にさらなる検討を依頼するとの方針を示したからだ。「沖合の防潮堤に頼らない方法で進めることになった」と社員は証言。津波対策としての防潮堤建設は中断・放棄されてしまう。

 被害者参加代理人の甫守(ほもり)一樹弁護士は「防潮堤をつくることが本腰を入れて検討されていたのに、被告人らが『当面やらない』と判断した。部下の提案を経営判断で『カネがかかるからやめよう』と退けたことが鮮明になった。大変意義のある証言だった」と評価した。

 この日、福島原発刑事訴訟支援団など3団体は東京地裁に対し「被害の実態をつぶさに把握し、刑事責任の深刻さを認識する上で、尊い命が奪われた病院・老人施設や避難住民の居住地を裁判官が現場検証することは必要不可欠」とする要請書を提出した。

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