2018年08月03日 1537号

【「労働尊重都市」ソウルから学ぶ/非正規の正規化 生活賃金 青年手当/率先して社会的な役割を】

 文在寅(ムンジェイン)政権を誕生させ、朝鮮半島の平和確立へ前進する韓国民衆運動。それは同時に、新自由主義に立ち向かい、貧困と格差のない社会をめざす運動でもある。朴元淳(パクウォンスン)市長率いるソウル市政は「労働尊重都市」を掲げ、“働く者”としての市民の権利・利益を保護する政策を次々と実行に移している。

 「奨学金負債」をはじめとした若者の貧困問題解決に向け、「教育」と「雇用」をつなぐ地域のネットワークを作ろうと7月14日、都内で開かれたシンポジウム(呼びかけ―教育の機会均等を作る「奨学金」を考える連絡会)。韓国・青年ユニオンの創設者の一人で、現在ソウル市労働協力官を務める趙誠柱(チョソンジュ)さん(39歳)が「ソウル市の労働政策と労働組合の社会的役割」と題して報告した。(大阪でも16日にシンポジウム開催)

 2011年10月の朴元淳市長就任後、ソウル市政は大きな変化を遂げた。韓国の自治体で初めて、労働分野を担当する部署=労働政策課が設置された(12年)。労働組合や市民団体などからもスタッフが入り、ともに政策の立案・実施にあたる。ソウル市25区のうち8区に設立した「労働福祉センター」は2年後、全25区に拡大する。

1万人を正規職に

 最も注目されたのが、非正規職の正規職化だ。12年以降現在までにソウル市の非正規職1万人が正規職に転換した。賃金引き上げなど待遇改善も行い、職名も「日雇人夫」「常用人夫」から「公務職」に改めた。自負心と誇りをもって働ける職場づくりに力を注ぐ。非正規職撤廃は文在寅政権の下、国の施策となり、公共部門20万人以上の正規化が進行している。

 最低賃金を超える「生活賃金」制を導入した。18年の改定で最賃が時給7530ウォン(1ウォンは約0・1円)なのに対し、ソウル市が定めた生活賃金は9211ウォン。来年は1万ウォンを突破するだろう。生活賃金制は他の自治体にも広がりつつある。

 労働の“死角地帯”を解消することも大切だ。介護従事者や外国人労働者、働くママたちの相談・支援センターをつくる。学習塾教師・保険勧誘員など移動しながら仕事する女性のための休憩所や、貨物運輸労働者・代行運転者・バイク配達員らが24時間いつでも休める休憩所を提供する。労働法の学習、労災・権利侵害の救済にも力を入れる。

 「青年手当」が創設された。韓国では青年の20%が失業状態にある。ソウル市は、1年以上ソウルに居住する19〜29歳の青年のうち週の勤務時間が30時間未満の者に対し、最長6か月間、毎月50万ウォンを現金で支給することを決める(15年)。これは役所が一方的につくった政策ではなく、13年以来3年にわたり青年ユニオンや当事者らを交えた「ソウル青年議会」など23回もの会合・討論を重ね智恵を寄せ合って練り上げたものだ。

 ソウル市は16年8月、対象者2813人に支給を開始したが、朴槿恵(パククネ)政権の保健福祉省はこれを職権で取り消し、中央政府とソウル市との正面衝突に発展。青年ユニオンなどは抗議のキャンペーンを組織し、ソウル市立図書館の壁には「青年の生活まで職権取消することはできない」という大横断幕が掲げられた。その後、朴槿恵弾劾を経た文在寅政権の発足により、青年手当政策は全国的事業として確立されることになる。

 趙さんは強調する。「キャンドル革命で、市民団体や労働組合が政府に文句を言うだけでなく自ら率先して社会的な役割を果たさなければいけないことがはっきりした。自分たちさえよければいいというのではなく、より多くの市民に開放し、社会的に意味のある活動をすべきだ」

次はユニオンシティーへ

 一例として、テレビチャンネルtvNの人気ドラマ『ひとり酒男女』のプロデューサー自死問題を取り上げた。キャンドル集会で公正な放送の実現を訴えていた「全国言論労働組合」や青年ユニオンなどが放送界の労働環境の劣悪さを問題提起し、tvNを運営する企業グループから公式謝罪を引き出す。朴元淳市長も当初から関心を示し、遺族に寄り添うとともに、ソウル市傘下の交通情報ラジオ局tbsの非正規職を正規化すると発表。「公正な放送をするには放送労働者の権利が保護されなければならない」と、放送局の多数集まる場所に「ソウルメディア労働者休憩所」が開設されるに至った。

 「労働組合、市民、自治体の三者が一緒になって一つのものをつくる。新しい教訓を得た」とふり返る趙さん。「次はソウル市をユニオンシティーにする。より発展した労働の組織化をめざしていく」と決意を語った。

 意見交換では、土屋のりこ足立区議から「昨年、足立区独自の奨学金を“給付型”に切り替えることが打ち出された。入学準備金の15万円助成は全国初の施策。画期的だが、さらなる改善を求めていく。足立区できょう、『子ども議会』が開かれ、中学生が教育費の無償化を提言していた。ソウル市の先進的な取り組みに刺激を受けながら、日本でも地域から民主的な政治を実現していきたい」と表明があった。 《7面に関連投稿》



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