2018年08月03日 1537号

【どくしょ室/男女平等はどこまで進んだか 女性差別撤廃条約から考える/山下泰子・矢澤澄子監修 国際女性の地位協会編 岩波ジュニア新書 本体900円+税/当事者の運動が拓いた前進】

 本書は、79年国連総会で採択された「女性に対するあらゆる形態の差別の撤廃に関する条約」(女性差別撤廃条約)と条約を基にした男女平等への内外での前進について、現在の課題とともに明らかにしたもの。幅広いテーマから政治と労働の一部を紹介する。

 政治分野では、日本では国民の代表者たる国会議員はなぜ「おじさん」ばかりなのか―を切り口に、議員を男女同数にする仕組みや意義が紹介されている。

 「パリテ」という考え方がある。「同等」を意味するフランス語で、政策を決定、遂行する組織を男女半々で構成するものである。フランスで2015年から県議会議員選挙で男女ペアでの立候補を義務付けた例などが上げられている。女性に対する議席割り当てなどの「クォータ制」も含めこうした仕組みをつくる理由は、参政権の保障だけでは解決できない差別を実態として取り除くためだ。

 日本では、衆議院の女性比率が10・1%で193か国中158位。ようやくこの5月、「政治分野における男女共同参画推進法」が成立した。基本原則とはいえ政党は候補者の男女均等をめざすことになり、ジェンダー平等実現に向けた重要な一歩であることは間違いないが、実効性は今後の運動にかかっている。

 労働分野では、85年男女雇用機会均等法が制定され、当初使用者側の「努力義務」であったものが社会の声に押されて97年、06年と改定され、入社から定年に至るすべての段階での性差別、出産などを理由とした不利益取り扱いが禁止されるなど進展してきた。

 一方、労働基準法第4条でも賃金の性差別が禁止されているにもかかわらず、男女間の賃金格差は大きい。条約は「同一価値労働同一賃金原則」を求めるがその仕組みは未整備であり、非正規労働の増加(特に女性)が差別の元凶となっている。

 前財務省事務次官によるセクハラが注目された。均等法は、セクハラに関する事業主の「措置義務」を規定する。だが、禁止規定ではない。セクハラが発生した際、加害者の懲戒や被害者の救済まで制度上も確立させなければならない。

 本書は、女性差別撤廃条約の完全実施を阻む多くの「壁」の存在を指摘し、その克服を呼びかける。

 コラムで紹介されている言葉「私たち抜きに私たちのことを決めないで!」。これは06年国連で採択された障害者権利条約がつくられる中でくり返された合言葉である。女性差別撤廃も、どの法律や制度も自然に実現したのではなく、46年国連の女性の地位委員会設置から、当事者の女性たちによって世界中で取り組まれてきた運動とつながっていることが感じられる。

 本書はジュニア新書として若者を意識したものだが、男性も含めすべての人にとって必要な内容が網羅されている。ぜひ一読を。(M)
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