2018年08月17日 1539号

【平和求める国際連帯/世界貿易戦争にみる米国の地位低下/軍事威嚇による覇権争いを許すな】

 イラク労働者共産党書記長サミール・アディルさんがZENKOin大阪(第48回平和と民主主義をめざす全国交歓会7/27〜7/29)参加のために来日した。イラク戦争から15周年となる今年、グローバル資本主義国間の覇権争いの中で、イラク政府の腐敗は深化し、民衆の生活基盤は崩壊したままだ。集会や分科会の中で、イラクの現状とともに移民・難民問題について発言。人間性に基づく国際連帯の強化を求めるサミール・アディルさんに、その思いを聞いた(7月30日インタビュー。ZENKOでの発言もあわせ、まとめは編集部)。


移民・難民問題の新局面

 ――ZENKO決議案に移民・難民問題への取り組みを提案した。なぜか。

 思い起こしてほしい。50年前は、移民・難民は問題になっていなかった。欧米諸国は受け入れていた。ところがどうだ。2週間前だったか、EUは送還した移民を収容する施設をアフリカにつくる協議をしている。なぜ、今は追い返そうとするのか。

 以前ならソビエト連邦が存在し、社会主義体制との対抗上、非人道的な対応を取れなかった。移民は低賃金労働者として必要とされた。だが今そんな状況はなくなった。資本主義体制の危機の中で新たな状況が生まれている。アフリカや中東を混乱におとしいれ、難民を発生させているのは欧米資本主義諸国の政策のせいだ。その結果、安全な生活、よりよい生活を求めてやってくる人びとが地中海で何千人と死んでいる。

 問題解決の方針は2つ。アフリカ、中東の腐敗政権への援助をやめさせること。欧米諸国などに人権問題として難民受け入れを迫ることだ。

 資本主義体制が引き起こすあらゆる災いと対決し、平和を実現する闘いを進めるZENKO決議を強化するために、移民・難民問題解決に向けた決議を求めたのだ。

人間らしい生活を求めて

 ――朝鮮半島での緊張緩和は、中東情勢にとって、どんな意味があるか。

 人類は今、歴史上最も危険な情勢の中にいる。資本主義国間の市場争いは頂点に達している。米国は対中国だけでなく、対EUや世界中で貿易戦争をしている。資本主義体制の経済危機の深さがわかる。この紛争が中東と太平洋地域の情勢に反映している。朝鮮半島での緊張緩和は、中国・ロシアの優位を示している。米国は世界中どの地域でも影響力を失ってきている。イラン核合意や地球温暖化防止条約からの離脱もそうだ。

 安倍政権が朝鮮半島の和平を歓迎しないのは、軍拡の根拠を失うから。市場の争奪戦に勝利するには軍事力がいる。海外派兵のための9条改憲は資本の総意でもある。

 中東の一般市民にとっては、毎日を生きのびることに精いっぱいで朝鮮半島の緊張緩和に関心を持つことは少ないが、米対中ロの力関係の変化はイラクに影響を与えている。

 イラク民衆は80年代のイラン・イラク戦争、91年湾岸戦争、03年イラク戦争後も06年米占領下での内戦、14年IS(「イスラム国」)による内戦と5度の戦争を経てもいまだ平和を手にできない。平和は価値あるものだ。戦闘がない状態にするだけではない。人間らしく生活できる状態にすることが大切だ。

 戦争によって社会が疲弊し、人びとの生活が困難を極めると反動的な勢力が反動的な思想・文化を社会にはびこらせる。進歩的な考え方は何世紀も後退し、右翼勢力が力を増す。資本主義体制下で平和を実現することは困難だが、平和を求める韓国民衆の闘い、平和の価値を広げる日韓民衆の国際連帯を断固支持する。

腐敗政権への支援やめよ


 ――米対中ロの覇権争いは、イラクにどのような影響を及ぼしているのか。

 2つのことが起こっている。1つは米国、イランによる軍事的威嚇であり、中東地域に恐怖をもたらしている。2つめは、ISが戻り、再組織を始めている。イラク新政府樹立をめぐる親米派対親イラン派間での争いだ。

 アバディ政権と米軍の幹部が、「ISが再び戻ってきた」と言っている。イラク国内の多くの地域で組織再建しているという。米国の間接的な支援により、ISが再び戻ってきた。イラン派による新政府樹立をけん制するためだ。

 それに対し、イランはイラク南部への電力と水の供給を打ち切った。ロシアの力を背景に、アバディ政権のようなイスラム主義者の政党や政権を作るつもりだ。

 イラク民衆は、15年間イスラム主義勢力の私兵に支配され、状況は一層悪化している。電力復旧に200億ドル以上費やされたが、電気は供給されない。イランやクウェートから電気を買うために400億ドル以上の借金をしている。

 生活環境を改善するプログラムがない。バスラでは摂氏50度前後の気温になるのに、電気が来ない。水道水には塩分が入っている。浄化する設備がない。公立病院には薬がない。患者は病院外で高額の薬を買う。児童労働が広がっている。膨大な失業者がいる。政府統計では30%、実際は50%以上だ。

国際的反戦運動の再構築を

 ――イラク民衆の闘いを支援し、連帯するにはどうすればいいか。

 イラク南部では7月8日から今に至るまで、抗議行動が起きている。アバディ政権と私兵により、15人が殺され、数百人が逮捕、誘拐された。

 アバディは先週「ISとの闘いの方が汚職との闘いよりずっと簡単だ。ISはどこにいるのか分かっているが、汚職はイラク社会の至る所にある」と言った。汚職との闘いを放棄した。むしろ、アバディ政権自身が汚職に加わっているのだ。他のどの政党もアバディ政権の対案にはならない。イスラム主義勢力による政権を終わらせることが唯一の解決策だ。イラクの民衆は一層の連帯を必要としている。パリやベルリン、コペンハーゲンでイラク民衆を支持するデモが起こっている。アバディ政権を糾弾する声を上げてほしい。

 今朝2時に機関紙を発行した。1面にZENKO大会の報告を載せた。イラクの各都市でこの記事を読めば、「自分たちの闘いは孤立していない」と確信できる。私たちは日本とイラクの国際連帯を強化しなければならない。

 世界は大きく変わっている。国際連帯を強化することが必要だ。かつて世界中で反戦デモが起きた。「99%」の運動、オキュパイ運動は資本にとって脅威だった。もう一度、再構築する時だ。人種差別、移民・難民、少数者に対する差別を乗り越えて、人間性に基づく国際連帯をつよめよう。
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