2018年08月17日 1539号

【ZENKO第5分科会/非正規職の権利実現/ソウル市コールセンター6年の闘い 全員正規職へ/すべての労働者が尊重される社会を】

 7月29日、ZENKOin大阪(第48回平和と民主主義をめざす全国交歓会)の「日韓連帯で非正規職の権利実現」などを掲げた第5分科会で、韓国・希望連帯労組茶山(タサン)コールセンターのシム・ミョンスク支部長が報告した。非正規労働者が正規職化・権利獲得を実現した6年間にわたる闘いを紹介する。

 日本の自治体職場は低賃金・不安定雇用の非正規職が拡大し、正規職が大幅に減らされている。しかし韓国では、ソウル市を中心に、労働組合が自治体の行政責任を問う闘いを通じて正規職に転換させる動きが始まった。

 コールセンターは、ソウル市行政への案内や相談を受ける業務を担っている。総勢540人で、民間会社に委託され多数の女性労働者が非正規職で働いていた。

 シム・ミョンスク支部長は当時の労働環境を振り返り「1時間の昼食時間が40分しかなく、水を飲むことやトイレに行くことも縛られていた」。さらに「苦情の電話への応対をする私たちは感情労働者(感情の抑制や緊張を伴う労働に従事する者)≠ナあると位置づけ、働きやすい職場、権利改善を掲げて2012年に組合結成した」と当時を振り返る。

 組合は最初に始業開始20分前出勤廃止、昼食時間確保などを実現させた。次に、会社との闘いからソウル市の行政責任を問うことが開始され、市に直接雇用を求めた。ソウル市は1万8千人、300企業の委託事業を抱える。ソウル市幹部は、彼女たちに「できない」と直接雇用を否定。人権弁護士出身の市長が新設した市人権委員会が「非正規問題の解決を」と勧告したことが運動の転機となった。

市民との連携

 2014年、支部はストライキや労働委員会闘争、市庁舎座り込みを重ね、市長面談をかちとった。12月、団体協約を締結。市は直接雇用に向けたロードマップを公表する。

 しかし、朴槿恵(パククネ)前大統領の下、政府の妨害による具体化遅延が危惧されたため、組合は市庁舎前雪中デモ、座り込み、集会などを連日展開し、市に約束厳守を迫った。2015年、直接雇用に向けた組合・市の協議体設置が決定。反対する保守系議員に対し、1か月間の市議会前行動をぶつけた結果、2016年に財団化条例が採択された。

 シム支部長は「私たちは積極的に市民団体や社会運動団体に発信し、1日で365団体の連帯賛同を得た。直ちに市議会に提出。公開討論会も行い市議会を動かした」と幅広い市民活動との連携が成果に結びついたことを報告した。

 2017年5月、市の公共機関で初の全員無試験での雇用承継、正規化転換となる財団が発足した。さらにチーム別の能力評価廃止、昇給・昇進制度導入など長期的安定的な雇用・賃金保障など一歩進んだ制度を獲得した。

 正規化闘争の成果をこう述べる。「組合が求めた正規化で雇用安定し、転職・離職率が低くなった。特に5年以上継続勤務の女性が8割に達した」。また「朴退陣を求めた国民的運動―ろうそく革命でも行動を共にした」と連携した運動の重要性を語った。

壁を越える

 今後の課題として「私たちもより良い財団、公共性を目指し、業務の専門性強化に向けた議論を進めている。感情労働者保護の方策も。職場の85%が女性。女性、そして家族にもやさしい職場にすること」と、職場に目を向けることを欠かさない。

 韓国社会を変える思いも強い。「韓国内の労組組織率はまだ1割。ソウル市だけでなく、すべての労働者が尊重される文化、労働組合の活動が保障される社会に変えたい」と抱負を語った。

 最後に「私たちが組合を作った時、直接雇用ができると考えた人は少なかった。6年間粘り強く闘えば、自分の運命も社会も変えることができることを示した」と力強く締めくくった。

 関西学院大学横田伸子教授は「女性たちを中心に組合を作り、直接雇用をソウル市に訴えかちとったことは画期的。コールセンターを感情労働と位置付けたのも新しい試みだ。社会的な運動、社会的な世論を味方につけたことが大きかった」と拍手を送った。

 シム支部長は「私たちの方針は、現場の壁を越えること。市民団体、障がい者施設、貧困層の人びとへの支援活動に積極的に参加している。これらの活動で私たちの闘いへの協力が得られた」と日常的な地域活動の重要性を訴えた。

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 分科会決議に関わってシム支部長は「案の『ソウル市に学び…』は正しいのか。闘いの主体はソウル市ではない。労働尊重都市ソウル、1都市だけをめざすものではない。社会全体だ」と議論を提起。「労働尊重社会をめざすソウルの労組・市民の闘いに連帯し、非正規労働者を組織化・正規化し、権利実現に前進しよう…」とまとめられた。



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