2018年08月31日 1540号

【平和を取引カードに使うな/朝鮮戦争終結宣言を今すぐ/市民の声を集めよう】

 朝鮮戦争の終結などを確認した南北首脳会談と米朝首脳会談。その実現へのプロセスは順調とは言い難い。戦争で利益を得る勢力の妨害行動や「貿易戦争」の取引に使われているからだ。必要なことは「朝鮮戦争終結」を求める市民の声を広く集め、平和に敵対する政治家を追放する運動をつくりだすことだ。

妨害者は誰だ

 朝鮮民主主義人民共和国(朝鮮)の核廃棄が先か、朝鮮戦争終結宣言が先か。米朝間の協議は双方の主張がかみ合わず、大きな進展はみていない。

 米政府は朝鮮に核施設のリストを要求しているが、朝鮮は今のところ応じていない。米政府が要求する非核化プロセスは、かつてイラク侵略に使った手だ。核施設リストが出されれば、次は現地確認。米政府は「まだあるはずだ」と決めつける。「不可逆的で検証可能な手順を示せ」と、朝鮮の「不誠実さ」をあげつらい追い込んでいく。

 首脳会談当初からこうした疑念がぬぐえないから「不可逆的で検証可能」とは言わず「完全非核化」で合意した。ところが、ポンペオ米国務長官が7月初旬に訪朝した際にこれを蒸し返した。朝鮮の金英哲(キムヨンチョル)国務委員は「一方的な譲歩はできない。終戦宣言が行われれば、ひとつずつ措置を行う」と返した。朝鮮は、朝鮮戦争休戦記念日の7月27日に合意事項である米兵遺骨55柱を返還し、朝鮮戦争終戦宣言の実現を重ねて求めた。

 8月初旬、金正恩(キムジョンウン)国務委員長とトランプ大統領間で親書の交換が行われ、合意事項の履行を確認し合っている。にもかかわらず、事態が進展しないのは、米朝関係の改善を望まない勢力による妨害活動があるからだ。

 その筆頭は軍産複合体だ。軍隊組織や軍需産業が平和を歓迎することはない。かつてイラン、イラクとともに「悪の枢軸」とブッシュ米大統領(当時)に名指しされた朝鮮は、軍事攻撃の対象。在韓、在日米軍をはじめ米インド太平洋軍の「仮想敵国」の一つになっている。陸軍士官学校首席卒業、金正恩暗殺計画を企てたCIA(米中央情報局)長官の経歴を持つポンペオは「半年程で7〜8割の核引き渡し」を要求するなど「高いハードル」を突きつけ、実務協議を難航させている。

「中間選挙勝利」のため

 トランプの政権運営の柱は、中間選挙に勝利し2期目をめざすことにある。軍産複合体の支持を取り付けようと、その要求に応えてきた。オバマ時代に毎年削減された軍事費を増額に転じ、2019年度予算は米国史上最高額7160億ドル(約78兆円)にした。

 シリア爆撃やイラン核合意からの離脱は、ロシアへの「強い態度」を示したものだが、それとともに米国内のユダヤ票を固める意図がある。イラク占領の失態以後、中東における影響力が低下する中で、イスラエルへのあからさまな肩入れ(エルサレム首都承認)は最もわかりやすい対応だ。

 トランプは、こうした中で、朝鮮を「平和のカード」として使おうと考えている。軍拡を批判する人びとの取り込みを狙っているのだ。中間選挙は11月6日。残る80日間で、全米50か所に共和党候補の応援演説に出かける。その際、米朝首脳会談への高い支持率(直後の世論調査で70%が首脳会談を評価。共和党支持者93%、無党派層74%)を改めて喚起したいのだ。

 7月のトランプ支持率は45%、共和党支持者では88%と高水準だが、「議会を制すべき党」の質問には、民主党約49%、共和党43%と劣勢だ。トランプが票固めのために「平和カード」を切るかどうかも、軍産複合体とのせめぎあいとなっている。

 しかし朝鮮半島の和平実現は、米国内世論だけでなく、全世界の広範な人びとの願いだ。この要求に背を向けることが、どれほど大きな痛手となるのかを思い知らせなければならない。

 和平促進の障害となっているもう一つの要因が「貿易戦争」だ。トランプは対中貿易赤字解消のために、関税率引き上げを相次いで行った。「関税措置を回避したいなら朝鮮に譲歩させろ」とのサインを含んでいる。中国は「報復関税」で受けて立ち、まさに「戦争」状態にある。中国は朝鮮への経済支援(10年間で総額10兆円)を約束したという(8/15日経ビジネス)。「非核化まで経済制裁」を固持する日米政府への対抗策だ。選挙材料に使いたいトランプに「持久戦」の構えを見せている。朝鮮戦争終結に欠くことのできない米中両国が朝鮮を人質≠ノしているのだ。


戦争終結なら軍不要

 安倍政権はどうしようとしているのか。9月の東方経済フォーラム(プーチン大統領主催)で日朝首脳会談、10月に日中首脳会談との政治日程を描いている。その場で何を打ち出そうというのか、明確ではない。首脳会談成功のためには、まず、朝鮮に対する敵対行為をやめなければならないはずだ。

 朝鮮の政府機関紙『民主朝鮮』(8/14)は「北東アジアの地域安保のためには日本の軍事力を抑え込むべき」と論評。無人偵察機「グローバル・ホーク」や弾道ミサイル迎撃システム「イージス・アショア」に触れ、「朝鮮脅威」より「中国とロシアの戦略兵力をけん制しようとする下心」と指摘した。安倍政権の軍拡・海外派兵路線は東アジアの平和実現の敵対物だ。その象徴が辺野古新基地だ。「20年前の合意」しか言わない安倍政権を翁長(おなが)沖縄県知事は厳しく批判していた。

 朝鮮半島の和平促進は、「取引カード」のように、出したり、出さなかったりするものではない。かならず実現すべきものだ。朝鮮戦争を終結せよ。戦争が終結すれば、戦争を継続する軍隊も、基地も不要となる。

 9月は重要な月になる。今年3度目の南北首脳会談が行われる。国連総会の場で朝鮮戦争終結への動きが加速されることも想定される。沖縄県知事選も行われる。全世界の人びとと声を合わせ、平和を妨害するものたちを黙らせよう。戦争から利益を得る政治家を追放しよう。

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