2018年08月31日 1540号

【非国民がやってきた!(288) 土人の時代(39)】

 アメリカやイギリスと同様に、オーストラリアでも先住民族の遺骨及び文化財返還事業が進んでいます。「先住民族文化財返還計画」はオーストラリアの国立博物館が所有する文化財を対象にしています。中央政府とは別に、ニューサウス・ウェールズ州政府も国立公園・野生生活局がアボリジニへの返還計画を進めてきました。海外からの返還については国際返還計画局が担当しています。

 そのためにオーストラリアの各州は先住民族遺骨返還に関する法律を制定しています。クイーンズランド州は2003年にアボリジニ文化遺産法とトーレス・ストレート島文化遺産法を制定しました。ヴィクトリア州は2006年にアボリジニ遺産法を制定しました。これらの法律は、遺骨との伝統又は家族的結びつきを有する人々に先住民族遺骨の所有権を付与しています。ヴィクトリア州法はアボリジニ遺産委員会を設置することにしました。こうして政府の努力を通じて多くに遺骨返還が実現しました。

 遺骨返還問題に詳しい法律家のクレア・フェカートによると、19世紀後半から20世紀前半にかけて膨大な遺骨コレクションが収集され、ヨーロッパに送られました。人種の生物的差異を調査・研究するため各国で利用されました。

 オーストラリアの先住民族は、死者の魂は自分の土地でなければ安息できないと信じていますし、文化遺産を取り戻したいと考えています。世界各地で遺骨返還を要求してきました。

 この20年ほど、アボリジニ及びトーレス・ストレート島の人々は、他の諸国と協議して、先祖の遺骨及びコミュにニティの聖物の返還を求めてきました。オーストラリアの博物館や政府もこれに呼応してきました。その一例がオーストラリアとイギリスの首相による共同宣言で、両政府が遺骨返還のための努力を強化するというものでした(本連載前回参照)。宣言はおおよそ次のように述べています。

 「両政府はオーストラリアの先住民族の遺骨返還のための努力を強化することに合意する。そのために両政府は、先住民族、とりわけ生存する子孫がいる場合、先祖の遺骨に特別な結びつきを有することを認める。オーストラリア政府はイギリス政府の遺骨返還のためのこれまでの努力に感謝する。両政府はこの分野での前進が両政府の協力にかかっていることを認める。先住民族の遺骨返還のために解決すべき諸問題があることを認め、これらの諸問題の解決には、両政府、先住民族及び保管施設の間の長期にわたる協力が不可欠であることを認める。新たな協力協定を締結するため先住民族団体と協議を行う。諸個人や諸団体によってすでに重要な努力が払われてきた。イギリスの所蔵品の中にある先住民族遺骨の特定にはさらに調査が必要である。両政府はイギリス及びオーストラリアの博物館と先住民族の間の情報共有のために議定書を作成している。イギリス自然史博物館が450の先住民族遺骨のリストを作成し、オーストラリア政府に情報提供したことを歓迎する。公的博物館も私的博物館も含めて、先住民族遺骨の返還が可能な限り実施されることを確認する。イギリスの複数の博物館がすでにそのための調査を始め、エディンバラ大学が遺骨返還を実現した。両政府はこの問題についての協力を継続する。」

 オーストラリアの先住民族にとって遺骨は重要な意義を持ち、遺骨返還はオーストラリアにおける和解計画の重要な一部ですので、一連の措置を講じて遺骨返還の促進を図っています。そのため博物館と先住民族団体の密接な関係が不可欠です。

 オーストラリアにおける先住民族遺骨返還の特徴は、政府が外国に対して交渉する立場を選択したことです。前回まで紹介したアメリカやイギリスは内外からの返還要求にいかに応答するかという立場でしたが、オーストラリア政府はイギリス政府に対して返還努力の強化を要請したのです。
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