2018年08月31日 1540号

【生産性発言と自民改憲案/“国益に寄与せぬ者に人権なし”が本音/安倍首相公認の差別思想】

 LGBT(性的少数者)の人びとを「生産性がない」などと中傷した自民党の杉田水脈(みお)・衆院議員。抗議の広がりに慌てた自民党は杉田の主張を「個人的な意見」としている。見え透いた嘘を言うな。「国益に寄与しない者は公的支援に値しない」という発想は、党の改憲草案にも示された安倍ドクトリン(教義)ではないか。

戦時中と変わらず

 人間を生産性で値踏みする国の方針は戦争の時代から変わっていないのでは…。そのようなことを考えさせられるテレビ番組が先日放送された。NHK・Eテレ『バリバラ』の「障害者×戦争」特集である(初回放送8月5日)。

 番組では、障がいを持つ人びとの戦争体験が紹介された。重度の脳性まひで生まれつき手足が不自由な松田春廣さん(93歳)。徴兵検査で受けた屈辱が忘れられないという。「裸にされて、体を笑われた。穀つぶしと言われた」。実際、家族から食事を与えてもらえない日もあった。「恐ろしいことだ。私は殺されていたかもしれない」

 足が不自由な上村慶子さん(79歳)は、空襲の際に親に面倒をかけるぐらいなら「死んでしまえ」と言われたそうだ。「社会全体がそうだったんですね。迷惑をかけるばかりの障がい者は生きていく資格がない、殺せって」

 高名な大学教授が盲学校の生徒に話した講話の記録が残っている。「あなた方は、直接兵隊になって国の役に立つことができない立場です。敵に体当たりをして散っていく同年輩の青年と自分を引き比べ、目の不自由さから来る身の至らなさに思いを致さなければならない」

 障がい者差別が公然と行われた戦争の時代。それは遠い昔の話なのか。番組のレギュラーである障がい者たちの受け止めは違う。

 「私自身も呼吸器を使っていたら『カネの無駄』とか『みんなの税金を使って』と言われることがあるから、それは戦争の時代と何も変わっていないんじゃないかって」(大橋グレースさん)

 「戦争のときは、戦争の役に立つか立たないかという指標があって、今は今で、経済的な活動の役に立つか立たないかという指標がある」(玉木幸則さん)

 LGBTカップルを「生産性がない」と評し、税金を使った支援には疑義があるとした杉田の寄稿文(『新潮45』8月号)に、障がい者や難病患者が敏感に反応し、抗議している理由は明白だ。彼らにとって杉田の主張は「ネトウヨのたわごと」ではない。現実の恐怖なのだ。

社会保障切り捨て

 公的支援の必要性を国家が生産性の有無によって判定する―。この発想は杉田のオリジナルではない。同じ考えの持ち主は自民党の有力議員の中に大勢いる。

 たとえば、麻生太郎・副総理兼財務相はこう言った。「食いたいだけ食って、飲みたいだけ飲んで糖尿になって病院に入るやつの医療費は俺たちが払っているんだから、公平じゃない」(2013年4月)。麻生のこの種の発言は枚挙にいとまがない。

 また、自民党の生活保護に関するプロジェクトチームの座長を務めていた世耕弘成(現経済産業相)は、生活保護受給者には「フルスペックの人権」を認めるべきではないと、雑誌のインタビューで言い放った(『週刊東洋経済』2012年7月7日号)。

 このように、杉田が書き散らした差別思想は自民党公認のものである。社会保障切り捨てを正当化する論理なのだ。だから謝罪も発言撤回もしないでいられるというわけだ。

経済成長が「国是」

 「我々は、自由と規律を重んじ、美しい国土と自然環境を守りつつ、教育や科学技術を振興し、活力ある経済活動を通じて国を成長させる」。これは自民党が2012年にまとめた「憲法改正草案」前文の一節である。

 憲法の基本原理を示す前文で経済成長を語る―。個人の権利と自由を保障することを目的とした近代憲法(立憲主義的憲法)の原則からするとおかしな話だが、自民党が経済成長を「国是」と位置づけていることがよくわかる。

 しかも自民党は「西欧の天賦人権説」にもとづく現行憲法の規定を改めたとしている。人は生まれながらにして自由かつ平等で幸福を追求する権利を持っているという思想は間違っており、人権は国家の都合で制限したり召し上げたりすることができるものだと言いたいらしい。

 日本国を経済成長させるために国民がいると考える連中が基本的人権の制限を当然視する。なるほど、経済成長に貢献できない者すなわち生産性のない者は、国の支援に値しないという発想に行き着くわけだ。ネトウヨ杉田は自民改憲案の申し子だった。安倍晋三首相にスカウトされた彼女は、教祖様の本音を代弁してみせたのである。

   *  *  *

 安倍首相は自民党としての改憲案を「次の国会」に提出したいとの考えを示した。人びとを経済成長の奴隷におとしめようとしている安倍政権。そのような国家改造計画を許してはならない。  (M)



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