2018年08月31日 1540号

【ブラックボランティア/本間龍著 角川新書 本体800円+税/東京五輪「タダ働き」でいいのか】

 2020年東京オリンピックで11万人ものボランティアの動員が計画されている。本書は、巨大資本の商業主義の下に開催されるオリンピックに無償ボランティアが動員されることを搾取以外の何物でもないと告発している。

 東京オリンピック組織委員会は3月、大会ボランティア募集要項案を発表した。それによると、大会中10日間、1日8時間以上従事でき、事前に研修に参加できる人が対象となる。制服は貸与されるが、日当はなし。交通費や、遠隔地からのボランティアに対する宿泊費用補助もない。

 募集される業務内容は、観客誘導、会場整理にとどまらず、通訳やドーピング検査にも関わる薬剤師など専門的知識を有する内容も含まれる。本来、正当な報酬を支払い人材確保につとめなければならない業務だ。

 組織委は「ボランティアだから無償なのは当然」と主張するが、そもそも「志願兵」が語源のボランティアに「無償」という意味はない。「無償」が社会的に許されるのは、公共性があり非営利的な活動だけだ。

 ところがオリンピックは、チケット収入、放送権料、スポンサー収入など巨額の利権が動く商業イベントだ。ただ働きのボランティアを正当化する理由はどこにもない。組織委は「かけがえのない経験と感動が得られる。やりがいのあるボランティア」とうたう。まさしく「やりがい搾取」「感動搾取」のブラックボランティアだ、と筆者は指摘する。

 オリンピック開催時期が7月下旬という酷暑の時期であるのも商業主義が背景にある。巨額の放送権料を支払うアメリカの三大TVネットワークが、スポーツイベントの少ない夏の開催を希望するからだ。ボランティア募集からシニア世代を除外したのは、熱中症続出の事態を意識したものだ。

 「プレイヤーファースト」とは名ばかりで、酷暑の東京で開催されるオリンピックは巨大商業イベントだ。総費用3兆円にふくれあがったこのイベントの利権に資本が群がっている。

 大手メディアがボランティア問題を追及できないのは、この利権構造に組み込まれていることによる。朝日、読売、毎日、産経各紙はオリンピックスポンサー企業であり、系列放送局がそこに組み込まれる。その情報統制の中心に位置するのが、オリンピック広報を独占し、メディアに圧倒的影響力を及ぼす巨大広告代理店の電通である。

 筆者は、酷暑の東京オリンピックに多くの若者がボランティアとして動員されようとしていることを、大戦時に膨大な犠牲者を出した日本軍の無謀な「インパール作戦」になぞらえる。ハッシュタグ「#Tokyoインパール2020」をつくり、SNSでこのボランティア問題を発信している。グローバル資本の儲けのためのやりがい搾取。そんなオリンピックはいらない。(N)
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