2018年09月07日 1541号

【未来への責任(256)遺骨持ち帰りの国際犯罪隠ぺい】

 戦後73年の8月15日、戦没者慰霊式典で安倍首相は「いまだ帰還を果たしていない多くのご遺骨のことも脳裡から離れることはありません。一日も早くふるさとに戻られるよう、全力を尽くしてまいります」と決意表明した。戦没者遺骨収集推進法が施行されて2年半が過ぎ、沖縄でのDNA鑑定が厚生労働省の思惑を大きく超え一般県民を含む集団申請運動として前進している。一方、厚労省の遺骨鑑定についての不十分さがNHKなどマスコミに指摘されてきた。沖縄県以外の太平洋地域全域での遺骨鑑定へ進むことに遺族の期待が高まっている中での安倍発言であることは明らかだ。

 さかのぼる7月17日、ガマフヤーの具志堅隆松代表とともに厚労副大臣を訪問した。目的は第3次のDNA鑑定集団申請名簿の提出。昨年7月の135名、12月の35名提出に続き3回目となる。7名の海外戦没者を含む84名を提出した。副大臣は、84体の遺骨(歯のある遺骨について、その歯と手足を鑑定)と326名(今回提出以前)の遺族の鑑定照合結果を年末までに終わらせ、通知すると発表した。3次に及ぶ集団申請運動の継続が遺族の声を集め、厚労省を動かす大きな力になったと思う。

 安倍演説の翌日、NHKはフィリピン遺骨問題に絡む国際的な犯罪を厚労省が隠ぺい工作していたことを全国報道した。現地の原住民の遺骨を墓から掘り出し、日本兵の遺骨として数千体を日本に持ち帰った疑いが浮上した。日本に持ち帰ろうとした1000体の遺骨がフィリピンに差し止めされ、調査が行われたが、3人の科学者のうち1人の結果だけを公表し、残りの2人が「判別できた遺骨のほとんどがフィリピン人と見られ、日本人と見られるものは1つもなかった」とする鑑定結果をまとめていたことは公表しなかった。にもかかわらず、日本に持ち帰った遺骨は科学的根拠のないまま、日本人であると公表されたのだ。

 アジア各地を戦争の惨禍に巻き込み、朝鮮からは無理やり日本兵として動員し、兵隊たちは死んでも放置したまま。そして、日本兵の遺骨を遺族やふるさとに帰そうという人道的旗を掲げて取り組んだものの、現地のお墓から骨を盗み出す始末だ。また、韓国から動員された人々の遺骨や米兵の遺骨があるかもしれないのに、日本兵だとして現地で焼いてDNA鑑定をできなくする傲慢な厚労省のやり方が極限まで来たといわざるを得ない。

 DNA鑑定を通じた民族分類の手法や、出身地分類ができる安定同位体検査の導入など、韓国人遺骨を韓国に帰す可能性は大きく進んでいる。しかし、それを阻んでいるのは厚労省の「すべてを日本兵として処理したい」考え方なのだ。

 この国際犯罪の隠ぺい問題を徹底追及しなければならない。フィリピンにとどまらずアジアの人々と日本の戦後処理・信頼関係に係わる大きな問題だ。安倍首相は8月15日に発した自身の言葉の意味を問われることになる。

(「戦没者遺骨を家族の元へ」連絡会 上田慶司)

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