2018年09月07日 1541号

【ドクター たばこ規制反対の最強勢力は】

 「いいかげんにしろ」と国会で自民党議員が卑劣なやじを浴びせたのは、自身重症肺がん患者で日本肺がん患者連絡会理事長の長谷川一男氏が受動喫煙防止を訴えた時です。7月18日、受動喫煙対策法が成立しました。この法により病院や学校、行政機関、保育園は屋内完全禁煙、飲食店や職場などは原則禁煙、悪質な喫煙者には最大30万円、施設管理者には最大50万円の罰則を科すことになりました。

 しかし、当初の法案に自民党内から強い反対意見が出て、小さな既存の飲食店を「例外」とするなどの様々な例外規定ができ、実に55%の店が「例外」となる、骨抜き規制だそうです。

 日本のたばこ消費量は世界4位、1人当たりでは12位(2009年)で、「先進国」ではとても高いのです 。

 法案の報道で登場したのは喫煙者と飲食店がほとんどでした。しかし、規制反対の最強勢力はJT(日本たばこ)です。JTのCMではまるで禁煙に賛成かのようですが、投資家向けには「高い競争優位性を保持する国内たばこ事業と、海外たばこ事業の飛躍的な成長によって、JTのたばこ事業は現在、世界第3位」と自慢しています。

 たばこを吸う人の総死亡率は吸わない人に対し、男で1・55倍、女で1・89倍です。しかし、止めれば死亡率はかなり下がります。肺がんの他に胃など多数の臓器のがんも増やしますが、本数を少なくすると増加は少なくなるようです。とはいえ、最近医療問題研究会で勉強した信頼性のある研究によれば、たばこの重要な害である心臓病では、例えば男では1日20本以上で2倍になりますが、たった1本でも1・5倍になるのです。また、直接吸わなくても、周りの人のたばこによる受動喫煙での多くの害も明らかになり、今回の法律につながったのです。

 JTの売り上げは国内6842億円ですが、海外はその倍1兆1982億円(2016年)です。JTの海外たばこ事業は世界中の医療関係者の敵です。JTはそのたばこ事業で世界3位の巨大多国籍企業です。

 オリンピックもあり、JTなど世界のたばこ産業に対する禁煙強化の闘いはより大きな政治課題となるかも知れません。しかし、喫煙者は禁煙推進を言いにくいもので、私もそうでした。私は50歳ごろまで恐ろしいことに毎日20〜50本は吸っていました。病院での肩身が狭くなり、また私と同年のおっさんの嫌なたばこ臭を実感し、たばこの害とやめ方の勉強をして、家族に八つ当たりもしながら、何度もの失敗の後、禁煙しました。数年後、たばこの害の真実を訴え続ける大島明先生から「それだけやめたら大丈夫」と言ってもらいました。禁煙の参考には、大島先生の本やネットでの文章や発言がおすすめです。

     (筆者は小児科医)
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