2018年09月07日 1541号

【どくしょ室/ソウルの市民民主主義 日本の政治を変えるために/白石孝編著 朴元淳ほか著 コモンズ 本体1500円+税/ソウルはできた、わが街もできる】

 「日本の政治を変えるために」―表紙の真ん中にどんと書かれている。そう。私は昨年11月からこれまで、幾度となく「ソウル市がスゴイ」と言ってきたが、何のためか。まさに、日本の政治を変えるためだ。

 本書は、日本の自治体政策とりわけ官製ワーキングプア問題に警鐘をならしてきた著者が、韓国ソウル市の新たな取り組み、意義をなんとしても伝えたいと考え記したものだ。

 お隣の国、東京と大阪を行き来するより(格安航空なら)安く行ける国、韓国。しかし、言葉に精通しない者にとっては情報を得ることはなかなか困難だ。この書から、大枠のソウル市行政の画期的な意義を、その息吹を知ることができるのは非常にありがたい。

 ソウル市が革新市長を誕生させた2011年の出直し市長選挙から話は始まる。給食費の「完全無償化」か、「一部無償化」かを問う市長選であった。あなたの自治体でこんなことがありうるだろうか。今ちょうど自民党総裁選のあれこれが報じられ、改憲が争点とも言われるが、どちらに転んでも憲法9条が破壊される悪魔の2択でしかない。また、前回の東京都知事選で争点になったのは築地か豊洲かという移転問題だった。

 ソウル市の2択は、突き詰めれば行政の在り方について、教育にとどまらず医療、住宅、福祉など人びとの暮らしに直結する部分について、無償化する普遍的福祉を選ぶのか、所得に応じた負担を求める選別主義を選ぶのか、という選択。わが街の在り方、自治体の基本的方向性を住民が決めるという意味があった。そして市民は、パク・ウォンスン(朴元淳)市長―給食費の完全無償化=普遍的福祉の街を選んだのだ。

 ソウル市では、公立小中学校の給食が無償化されている。市立大学の授業料が半額になった。公共部門で非正規職労働者が正規職化された。パク・ウォンスン市長が矢継ぎ早におこなった施策だ。「市民が市長」を掲げるソウル市は、政策立案にあたっても市民運動グループや労働組合と共に℃謔闡gみ、市民自治を育てていこうとしている。

 今年のZENKOin大阪(平和と民主主義をめざす全国交歓会)にも、韓国からゲストが来られた。韓国スゴイ≠ニ憧れの目線を送る日本の私たちに対し、美化してはいけないと言っていたそうだが、実際以上に美しいものとして描いているわけではない。日本の自治体がひどすぎるのだ。

 ソウルでできたことは、日本でも可能だ。同じ人間の営みなのだから。ぜひ皆さんも、ソウル市行政の志に触れられる本書をお読みいただき、知ってほしい。あまり難しく考えすぎずに、良いと思うソウル市事業を、自分の自治体にやれと求めていこう。

 この書を片手にわが街の自治体行政変革を勝ち取っていこうではないか。

 (東京都足立区議・土屋のりこ)
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