2018年09月14日 1542号

【9・30沖縄県知事選挙 争点は新基地阻止/問われる日本の民主主義】

 沖縄県は、基地建設のための公有水面埋め立て承認を8月31日に撤回した。県民は、9月30日投開票の知事選でその意思を示す。「基地反対」の変わらぬ意思だ。知事選は、安倍政権が吹聴する「政府には勝てない。振興予算を手にした方が得」という「あきらめ」との闘いだ。本当に政府には勝てないのか。経済のためには政府に従わねばならないのか。決してそうではないことを明らかにしよう。

「撤回」で勝利を

 「あきらめ」を誘う要因の一つは、公有水面埋め立て承認をめぐる法廷闘争だ。県は3年前、前知事の審査に瑕疵(かし)があったとして承認自体を取り消した。国は「取り消し」は違法だと対抗。結局、最高裁は16年12月、国の言い分そのままの判決を出した。県の「取り消し」を違法行為として取り消した。

 今度の撤回にも国は「法的措置をとる」としており、司法人事まで手にする安倍政権には勝てないのではないかとの見方が流布されている。

 だが、防衛庁工事には数々の違法性があることが実態として明らかになった。県が撤回理由の真っ先にあげたのは、国が隠していた軟弱地盤や活断層の存在だ。埋め立て承認の法的要件である「適切な場所」でもなく、安全な構造物とならないため「災害防止に十分配慮」との要件も欠く。工事に際しては、県との事前協議、サンゴやジュゴンなどの希少生物の保護など、行うべき義務を果たしていない。

 そして何よりも「普天間飛行場返還の唯一の方法」としてきた埋め立て理由がウソであったことだ。辺野古新基地が完成しても、米軍の求める滑走路の長さに足りず、普天間基地が返還されない。こんなでたらめを裁判所は擁護するのか。違法行為をやめさせる知事権限を認めないと言うのか。正しい司法判断をさせるのは市民の監視、世論の圧力だ。勝算はある。

地方自治を守る

 沖縄は憲法、地方自治のあり様を問うてきた。95年の米兵少女暴行事件に対する県民の怒りを背景に、当時の大田昌秀知事は「米軍用地の強制使用手続きに関する代理署名」を拒否した。知事は国の地方機関の1つとされていたため国が起こした職務執行訴訟の結果、署名せざるを得なくなった。だが、この「拒否」はその後、国と自治体を対等な関係と認める地方自治法の改正へとつながった。

 その真価をはじめて問うたのが、3年前の「埋め立て承認取り消し」だった。国と自治体は法的には対等となったものの、実態は違った。そして今、再び「撤回」の知事権限を圧殺しようとする政府との攻防が起こっているのだ。

 「地方分権の時代」と言われたのは20年前だ。その後、原発再稼働、災害避難など、自治体の役割は安倍政権のもとで一層弱体化している。その象徴が、沖縄県に対する威圧的振る舞いなのだ。憲法95条には、1つの自治体にしか適用されない法律の制定は、その自治体住民の過半数の同意がなければならないことを定めている。国の施策であっても少なくとも主権者、自治体に同意を得るべきという民主主義の道理を示したものだ。

 全国知事会が翁長雄志(おながたけし)知事の提起した「日米地位協定見直し」を全会一致で採択し、日米両政府に申し入れた。全国の地方議会から地方自治を守れ、沖縄県の判断を尊重せよと意見書を集中し、沖縄を孤立させないことが「あきらめ」を跳ね返す力となる。

 「あきらめ」誘導と一体で進められるのが、露骨な利益誘導だ。政府は、新基地の地元である辺野古、豊原、久志の3区への「再編関連特別地域支援事業補助金」を15年に創設。基地反対の名護市を通さず、17年度までに2億円以上を交付してきた。自治体行政を混乱させる、あり得ない税金の政治利用だ。

「振興予算」のウソ

 こうした露骨な利益誘導を見せつけ、誤解を拡大しているのが「沖縄振興予算」という言い方だ。自治体にわたる地方交付税交付金や国庫支出金の他に、沖縄には特別な予算が上乗せされているかのように響く。「結局、沖縄は基地で食べている」という悪意に満ちたデマにつながっていく。実際はそんなものはない。16年度決算ベースで、人口1人当たりの交付金は全国17位、国庫支出金との合計でも全国5位である。

 なぜ「振興予算」と呼ぶのか。沖縄関係予算は、県と各省庁の間に内閣府沖縄担当部局(前沖縄開発庁)が入り、一括して財務省に要求する仕組みとなっている。72年まで日本から切り離されていた沖縄の復帰に際し、「沖縄振興開発特別措置法」が施行され、「沖縄振興予算」を政府が取りまとめることとしたからだ。予算折衝に不慣れな沖縄に配慮した措置だったものを、逆利用しているのだ。


「基地経済」を跳ね返す

 翁長知事は「沖縄経済にとって基地は最大の阻害物だ」と言った。県民所得に占める基地関連収入はわずか5%程度に過ぎない。返還された基地跡地の開発により、雇用者数、経済効果は数十倍となる。県がまとめた資料では、米軍牧港(まきみなと)住宅地区の跡地である那覇新都心地区は雇用者実数で93倍、税収効果は20倍になった。基地をなくせば、沖縄の経済発展はさらに加速することは明らかだ。

 ところが、安倍政権は沖縄を「基地経済」に縛りつけようとしている。翁長知事就任後、一般的な公共事業費である内閣府総合事務局発注額が激減し、沖縄防衛局の予算が急増していることがわかる(図参照)。防衛予算を増大させ、基地依存度を高めるようにしているのだ。

 辺野古新基地は60年代後半に計画された米海兵隊海上新基地構想がベースだ。ベトナム戦争の時代の産物が50年以上を経て、東アジアに平和を築こうとする時代によみがえろうとしている。しかも、自衛隊使用も想定されている。

 安倍政権のウソと脅しで沖縄県民に「あきらめ」を選択させるわけにはいかない。地方自治破壊、地方経済破壊、戦争する国への暴走を止めるためにも、すべての自治体から連帯して闘おう。



ホームページに戻る
Copyright Weekly MDS