2018年09月14日 1542号

【トリチウム汚染水 海洋投棄するな/福島 東京の公聴会で反対意見相次ぐ】

 原子力規制委員会の更田(ふけた)豊志委員長が福島第1原発汚染水の海洋投棄方針を進める中、経済産業省「多核種除去設備等処理水の取扱いに関する小委員会」による説明・公聴会が8月30日福島県富岡町で、31日郡山市と東京都で開催された。

 同小委員会は2016年に設置され、13人の委員には開沼博立命館大准教授ら御用学者が名を連ねる。過去9回の審議の大半を「風評被害対策」に費やし、汚染水「安全」思想を流布。今回の説明・公聴会も、住民とコミュニケーションを図りながら汚染水処理方法を決定したとする報告書作成へつなげる狙いだ。

 富岡会場の参加住民は約100人。入場は全員が事前応募者に限られ、発言者も事前に申し出た14人だけ。会場からの発言は一切認めない、きわめて管理され閉ざされたものだった。

 しかし公聴会では、主催者の思惑を超え、汚染水海洋投棄に反対する漁業者の意見や、トリチウム以外の核種除去をめぐる批判が相次いだ。

 福島県漁業協同組合連合会の野ア哲会長は「海洋放出は行わないよう要望する。水産物の安心感をないがしろにし、魚価の暴落、漁業操業意欲の減失、福島県漁業への致命的な打撃につながる。汚染水処理は、漁業者だけではなく、トリチウム発生のメカニズムや危険性、取り扱いに関わる国民的議論を尽くし、国が判断して責任を負うことを明確にすべきだ」と訴える。試験操業に携わってきた漁師の小野春雄さんは「まもなく本格的操業に変わろうとした矢先、ヒラメから基準値を超える放射能が検出され、固定刺し網漁の自粛を余儀なくされた。その上トリチウムの海洋放出とは何ごとか。せっかく試験操業の実績を積み上げてきたのに。絶対反対だ」と怒りをぶつけた。

 汚染水をトリチウム水と呼ぶのは「他の核種は除去されることを前提にしているから」と説明されてきたことに批判が集中した。「浄化したはずの汚染水に、基準値を超えるヨウ素129やストロンチウム90、ルテニウム106などが残存と報道された。情報の公開と公正な提供に重大な瑕疵があったのではないか」「トリチウム以外の核種の存在を提示せず、トリチウムだけの議論は大きな問題」

 また、東京会場では、トリチウムによる内部被ばくの危険性、原発周辺での健康被害の事例を基に海洋放出に反対する意見が多く出された。

 処理方法の結論を急ぐ理由に、小委員会は敷地内貯水タンクの限界を上げる。これに対し、「タンクの容量が限界というなら、20万dタンカーに移して放射能減衰を待て」「(隣接する)国有地に増設すればいい」「費用が安いから海洋放出というのはおかしい」など意見が出された。

 公聴会後、山本一良委員長(名古屋学芸大副学長)は「残留放射性物質の処理は当然だ。今日の意見を聞いて貯蔵タンクの保管、増設の方法も選択肢の一つとして検討する」と述べざるを得なかった。

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