2018年09月21日 1543号

【イラクと日本 政府機能マヒで汚染飲料水 バスラでは市民が抗議デモ】

いまだに新政権できず

 イラクでは今、政府が全く機能していない。5月12日、国民議会の総選挙が実施された。ところが、選挙後約4か月も経過しているが、「連立交渉」が長引きいまだに新政権成立にも至っていない。

 総選挙で最大議席をとったシーア派のサドル派政党連合とアバディ現首相の政党連合は9月2日、最大会派の結成で合意した。だが、クルド系政党が態度を示していないので政権発足にはまだ時間がかかると報道されている。

 これらの政党・勢力は、イラクの莫大な石油利権を得るために汚職と腐敗を強め、権力闘争に明け暮れている。市民の生活の苦しみなど全く考えていない。事実、イラク各地の社会サービス機能は大幅に低下し、事態は深刻化する一方だ。

水も電気もない

 この夏は特に水道の水が出ず、エアコンを動かす電気が来ないという事態が各都市で続出している。イラクの夏季の気温は摂氏45度から50度にも達する。こうした猛暑が続いているのに社会サービスが何の改善もされないのでは、たまったものではない。

 それだけではない。南部の大都市バスラでは、8月のわずか1週間のうちに4千人以上が汚染された飲料水を飲まされる事態となった。9月には、汚染された水を飲んで入院した人がのべ3万人に達するまで健康被害が広がっている。

 バスラ州評議会議員のカリーム・シャワクは次のように指摘する。「4千人以上の市民に下痢の症状が出ている。バスラ州の関係機関の幹部は、そうした事実で世論が混乱し社会に影響を与えれば自分の地位を失うのではと恐れ、この数字を隠した」

 アバディ政権も、バスラ州政府も、市民の健康被害に何の対策もとっていないばかりか、被害を隠ぺいして責任逃れをしようとしている。

広がる抗議行動

 市民が怒りだすのは当然だ。バスラでは7月、「水や電気などの不足を改善しろ」と要求するデモが始まった。最近ではデモ参加者が3000人にまで増えている。8月には首都バクダッドにも抗議行動が広がった。

 さらに、バスラの港湾労働者は、アバディ政権とバスラ州政府に対して「清潔な水や電気を供給せよという市民の基本的人権の要求に応えないのなら、バスラ港を通る石油の輸出を停止させる」と宣告している。

 イラク労働者共産党は「バスラの300万人の健康と生命を危険にさらすこの問題を意図的に無視する行為を糾弾する。問題を無視する行為は『清潔な飲料水を手に入れる』という最も基本的な人権に反している」と厳しく批判している(8月22日)。そして、「港湾労働者に続きイラクの主要産業の石油労働者や他の産業の労働者も闘いに参加しよう」と訴えている(9月1日)。

 基本的人権を守るために汚職政権・政党と闘うイラク市民・労働者と連帯しよう。

(イラク平和テレビ局in Japan代表・森文洋)



 
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