2018年09月21日 1543号

【どくしょ室/総介護社会―介護保険から問い直す/小竹雅子著 岩波新書 本体840円+税/誰もが当事者の時代に】

 「介護保険は、利用者の自己決定、自己選択の制度」と厚労省はうたっていた。だが、政府は看板だったはずの自己決定・自己選択≠烽ウせない制度へと変質させてきた。介護認定を受けた人のうち17%が介護サービスを利用していない。その理由の一つに介護サービス料を払えないことがあり、厚労省の掛け声はむなしい。安倍政権は、今後ますます介護保険制度を利用させないよう誘導することを宣言する始末だ。

 度重なる制度改悪のため介護保険制度の問題点が見えなくされている。本書は、複雑さを増す介護保険制度を解き明かしながら、「介護がある暮らし」の普遍化に向けた提案をしている。

 本書は、「介護問題の社会化」から話に入る(序章)。介護保険制度が始まるとき、「介護の社会化のため」ということが強調された。制度導入後、家族の中にとどまっていた介護問題が社会に見えるようになったのは確かだ。同時に、高齢者が抱える諸問題も見えはじめている。

 次に、制度を利用する人と介護現場で働く人について、問題が山積みの実態が描かれる(1、2章)。介護をとりまく社会状況を押さえたのち、介護保険のしくみ(3章)、介護保険の使い方(4章)、介護保険にかかるお金(5章)について解説する。誰もが最低限知っておくべきことだ。

 6章と7章が本書の特色となっている。

 6章は「なぜ、サービスは使いづらいのか」と題し、この間の制度改悪攻撃の内容が明らかにされ、批判も加わる。2014年に地域ケア会議が新設されたが、司会者はいても責任者が曖昧であり、本人や家族に参加が求められないといった現状にある。「利用者の自己決定」が考慮されていない事例なのだ。

 7章は「介護保険を問いなおす」。著者は「変更が拡大するなかで、『介護の再家族化』、あるいは『介護の地域化』にむかう圧力が強まり、交替するように『介護の医療化』をすすめている」と捉え、向かう先が違っていると言う。介護と医療の連携が強調されることを危惧し、介護と医療の役割分担をはっきりさせるべきと念を押す。

 「介護の社会化」を掲げたはずが、変質に変質を重ねた結果、「介護の再家族化」に向かおうとしている。本書は直接言及していないが、介護に保険制度は適さず、公費による介護保障こそ求められている。

 高齢化は一層進み、「介護がある暮らし」は普通となる。だが、尊厳ある暮らし≠ニはほど遠い実態は深刻化の一途だ。介護が必要な人は立ち上がれず、介護をする人にゆとりがない中、著者は「介護未満」の被保険者6000万市民の役割を語る。介護が必要となればいつでも使える制度にするために、まず市民が関心を持ちアクセスすることを呼びかけている。(I)
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