2018年09月21日 1543号

【福島原発刑事訴訟第24回公判 「経営陣は津波対策を了承していた」 設備部門トップの調書 証拠採用】

 福島原発事故の刑事責任を問われている東京電力旧経営陣3人の第24回公判が9月5日、東京地裁であった。

 事故当時、原子力設備管理部長だった元幹部の供述調書を、検察官役の指定弁護士が2時間かけて朗読した。聴取した東京地検作成の調書で、元幹部が出廷できないため裁判長が証拠として採用した。

 原発の耐震対策部門の最高責任者だった元幹部の供述には、これまで明らかにされなかった事実が含まれている。

 国の地震調査研究推進本部(推本)の津波評価をめぐり、08年2月に被告らが出席して開かれた“御前会議”で元幹部は「津波想定の引き上げにより建屋の防水性向上などの新たな対策が必要になる」と報告。異論は出なかった。津波対策実施の方針は翌3月の常務会にも上程され、了承された。東電の子会社が最大津波高15・7bと計算した際も元幹部は「10bは超えないと思っていたので大変驚いた」が、「耐震バックチェックに推本の予測を取り込む方針は維持されていた」という。

 ところが、08年7月31日の打ち合わせで被告の武藤栄元副社長は一転して津波対策の先送りを決める。“ちゃぶ台返し”の方針転換だが、元幹部は賛成した。理由として「防潮堤の建設には数百億円かかる。工事期間は4年以上。その間は原子炉を止めろといわれる。収支が悪化し、電力の安定供給も果たせなくなる」と供述している。

 対策を先送りすれば、バックチェックの審査を通らないおそれもある。武藤元副社長は「審査にあたる有力な学者に“根回し”し、了解を得る」よう元幹部らに指示。東電が国の規制機関を“虜(とりこ)”にしていたことが裏付けられた。

 「暫定の措置も考えなかったのか」と問われ、元幹部は「考えもしなかった。中越沖地震で柏崎刈羽原発に想定を超える揺れがあり、そう何度も想定を上回る事象が生じることはないと思っていた。切迫感はなかった」。このくだりが読み上げられると、傍聴席から驚きの声がもれた。
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