2018年09月28日 1544号

【どくしょ室/翁長知事の遺志を継ぐ 辺野古に基地はつくらせない/宮本憲一・白藤博行編著 自治体研究社 本体600円+税/今こそ問う「自己決定権」】

 本書は沖縄県知事選挙を目前に緊急出版されたブックレットである。8月8日に急逝した翁長知事が貫いた「辺野古に基地は造らせない」遺志を確認し、引き継ごうと呼びかける。

 編著者の宮本憲一は、安全保障と地方自治の問題について、翁長知事が「沖縄の自己決定権」という言葉で全国に問い続けたことを高く評価する。全国知事会は7月27日、初めて「米軍基地負担に関する提言」を発表し、政府に対して日米地位協定の抜本的見直しを迫った。その背景には、沖縄への歴史的構造的差別の解消と憲法による自治権の確立を求める翁長知事の必死の主張があった。宮本は、翁長知事が沖縄の自己決定権がないがしろにされてきた現実を「魂の飢餓感」と表現し「日本に本当に地方自治や民主主義は、存在するのでしょうか」と問いかけてきたことに応えなければならないと言う。

 翁長知事が埋め立て承認の撤回を表明したのは、サンゴを破壊するコンクリートブロック投入など環境保全措置の義務を怠る違法な工事を続けてきたこと、最近になって確認された軟弱地盤、活断層帯など工法変更が避けられないにもかかわらず政府が県に報告することもなく工事を強行していることが根拠になっている。本書は、辺野古・大浦湾をはじめとする沖縄の豊かな自然環境を破壊してきた米軍基地の存在が、持続可能な平和な沖縄と相容れないことを訴える。翁長知事とオール沖縄もこの認識を深めてきた。

 沖縄の「振興」と基地問題をリンクしてきたのは日本政府だ。今回の知事選でも、政府は、結果次第で「沖縄子ども貧困対策事業」の全額補助を削減すると公言し、子どもの貧困率が全国最高の沖縄に対して、県民の分断を謀ろうとしている。予算を人質に基地受け入れを迫る手法がくり返され、今も続く。

 翁長県政は「基地が沖縄の経済発展の阻害要因」のスローガンを掲げ、地元経済界も「オール沖縄」を支持してきた。本書は、沖縄が基地に依存しているのではなく、基地が沖縄に寄生し、沖縄の経済発展の機会を奪ってきたと述べる。

 知事は亡くなる直前の七夕飾りの短冊に「平和!心ひとつに誇りある豊かさを」と書いた。「誇りある豊かさ」とは、強制された基地依存の「豊かさ」でなく、基地のない沖縄の自立した豊かさを意味する。そしてこの言葉は経済重視の保守≠ニ誇りある平和を訴えてきた革新≠フ対立をまとめ上げた「オール沖縄」の原点となるものだ。

 翁長知事が訴えた、沖縄の自己決定権への問いは日本の民主主義への問いであった。「私たちが屈することなく立ち向かっていく姿を子どもたちに見せる」(『戦う民意』翁長雄志、2015年)ことを自分の責任とした知事の遺志を受け継ごう。     (N)
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