2018年10月05日 1545号

【平壌共同宣言 3度目の南北首脳会談 朝鮮半島非核化へ共同 終戦宣言先取り「戦争は終わった」】

 今年3度目となる南北首脳会談。9月19日「9月平壌共同宣言」(表1)が発せられた。「年内朝鮮戦争終結実現」(4月板門店宣言)を先取りする事実上の終戦合意である。両首脳は「終戦宣言」後を見据え「民族経済の均衡ある発展」をめざしている。「朝鮮半島の歴史的転換」を歓迎し、平和を確かなものにする時だ。東アジアの平和への流れを妨害する戦争屋たちをあぶり出し、その策動を封じ込めよう。

首脳会談3度目の理由

 韓国文在寅(ムンジェイン)大統領と朝鮮(朝鮮民主主義人民共和国)金正恩(ジュンウン)国務委員長は9月18〜20日、平壌(ピョンヤン)で会談を行った。なぜこの時期に、3度目の会談が必要だったのか。

 南北首脳会談は、4月、5月と開催された。いずれも、史上初となる米朝首脳会談を実現させるためであった。朝鮮戦争の終結宣言、朝鮮半島の非核化を実現するために必要不可欠だからだ。

 実現した米朝会談で、非核化、終戦宣言への意志は明確に示された。だが、平和を望まない勢力からの妨害はやまなかった。米政府は、朝鮮に「核関連施設のリスト」提出を迫り、「終戦宣言より非核化」と主張。交渉膠着(こうちゃく)の責任を朝鮮にかぶせ、「制裁維持」に固執した。この時期に、米政府内の妨害勢力を抑え込むために3回目の南北首脳会談が必要だった。トランプ大統領は文大統領に「米国を代表する首席交渉人を果たしてほしい」と伝えていた。

 南北会談の成果は「米政府対策」にとどまらない大きなものとなった。両首脳は「非核化」へのプロセスとともに「終戦宣言」後を見据えた経済交流を具体化した。「経済制裁」ではない「非核化」への対案を示したのだ。文大統領は、国連出席にあわせトランプ大統領との会談に臨む。非公表事項も含め、米朝会談での進展を促す。トランプ大統領にとっても対朝鮮経済制裁解除などに方向転換し、11月中間選挙で平和の成果をアピールするにはぎりぎりのタイミングとなった。

 たとえ米政府が応じなくても、南北首脳が戦争終結から民族和解、平和統一への決意を示すことで、妨害勢力を浮かび上がらせることができる。

非核化への決意

 「非核化」交渉を進めるために何が合意されたのか。

 朝鮮は、核関連重要施設のひとつ東倉里(トンチャンリ)のエンジン実験場とミサイル発射台を永久に廃棄する。関係国専門家の参観のもとに実施することを明記した。これは無条件だ。米国が「相応の措置」をとれば、「寧辺(ニョンビョン)の核施設を永久廃棄するなど追加措置をとり続ける」と記した。寧辺は原子炉やウラン濃縮など核開発の象徴的な施設だ。他の核施設(非公表)の廃棄も想定されている。

 「完全非核化」の意思を疑われてきた朝鮮は、米朝高官レベルでの取引を避け、共同宣言に具体的措置を例示した。「相応の措置」(終戦宣言を想定)を条件にし、「非核化」が進むかどうかは、米国次第という構図を明確にした。

 韓国の立場は、「朝鮮半島の完全非核化を推進していく過程で共に緊密に協力していくことにした」と共同宣言に示した。米側の敵対・妨害行為にくみせず、南北が共同して軍事緊張、戦争の火種を一掃することを改めて表明したものと言える。朝鮮半島の非核化は米政府の思惑に左右されないとの決意が読み取れる。

 こうした決意は、共同宣言の付属文書「板門店軍事分野合意書」(表2)に一層明確に示されている。

実質的な終戦宣言

 「合意書」は「朝鮮半島の軍事緊張を緩和し、信頼構築が恒久的で強固な平和を保障する必須のもの」と、双方の軍事責任者(韓国国防部長官と朝鮮人民武力相)が署名した。6項目にわたる合意内容は、極めて具体的である。

 まず「相手方に対する一切の敵対行為の全面中止」。「陸、海、空すべての空間で、紛争解決は平和的に行い、武力を使用しない」「相手方の管轄区域への侵入、攻撃そして占領行為を行わない」としている。偶発的な事態に対しても、警告の手順を共有し、「誤解」による武力衝突のエスカレートを防ぐ措置が定められた。

 海域「境界」について南北の認識は同じではない。だが今回、東海(日本海)、西海(黄海)上に敵対行為中断区域を設定。さらに双方の漁民の安全のための共同巡回方法の協議へと進んでいる。

 文大統領は署名式で「戦争のない朝鮮半島が始まる。朝鮮半島の全域で戦争の起こるあらゆる危険をなくすことに合意した」と語った。金委員長は「遠からず現実になる私たちの夢が含まれている。どんな逆風も恐れない」と応じている。朝鮮戦争の終結には、米国、中国の署名が必要となる。だが、朝鮮半島の当事者間では、終戦後の「民族経済の均衡ある発展」に思いを馳せている。一方的ではない相互互恵の精神が「対立」を解消させた。誰も後戻りさせることはできない。

武器、軍隊を撤収せよ

 トランプ大統領は「素晴らしいニュースが届いた。和平に向けた良い兆し」と評価した。しかし、共和党内部には「非核化は不十分な内容で、米国に譲歩を迫るもの」(下院外交委員会ロイス委員長)と和平進展に拒否反応を示す動きがある。日本政府も「完全な非核化につながることを期待」(菅義偉官房長官)と懐疑的であり、メディアはさらに否定的だ。中国、ロシアが歓迎と称賛を表明しているのとは大違いだ。

 韓国では軍事独裁政権が国内の民主化闘争を弾圧する口実に常に「北の工作」を使ってきた。今、民衆のろうそく革命が生んだ大統領が「北の脅威」を払拭した。70年近くの「敵対関係」が対話で解消する「歴史的転換点」に至っている。何よりも南北の市民が、これを歓迎している。

 朝鮮に向けた日本の迎撃ミサイルシステム「イージス・アショア」、韓国のTHAAD(サード)(高高度防衛ミサイル)をはじめ、無用な兵器、軍隊を撤収すべき時が、いま訪れている。





表1【9月 平壌共同宣言(抜粋、小項目は略)】

 両首脳は民族自主と民族自決の原則を再確認し、南北関係を民族的和解と協力、確固とした平和の共同繁栄のため一貫して持続的に発展させていくことにし、現在の南北関係の発展を統一につなげていくことを望んできた、全ての同胞の志向と希望を政策的に実現するため努力していくことにした。

 両首脳は板門店宣言を徹底して履行し、南北関係を新たな高い段階に進展させていくための諸般の問題と実践的な対策を、虚心坦懐に深く議論し、今回の平壌首脳会談が重要な歴史的な転機になるだろうという認識を共にし、次のように宣言した。

1. 南と北は非武装地帯をはじめとする対峙地域での軍事的な敵対関係終息を、朝鮮半島の全地域での実質的な戦争の危険の除去と根本的な敵対関係の解消につなげていくことにした。

2. 南と北は相互互恵と共利共栄の土台の上に、交流と協力をより増大させ、民族経済を均衡的に発展させるための実質的な対策を講究していくことにした。

3. 南と北は離散家族問題を根本的に解決するために人道的な協力をより強化していくことにした。

4. 南と北は和解と団結の雰囲気を高め、わが民族の気概を内外に誇示するために多様な分野の協力と交流を積極的に推進していくことにした。

5. 南と北は朝鮮半島を核武器と核脅威のない平和の基盤として作り上げなければならず、このために必要な実質的な進展を早くに成し遂げなければならないという認識を共にした。

6. 金正恩国務委員長は文在寅大統領の招請により、近い日時にソウルを訪問することにした。

2018年9月19日

大韓民国大統領 文在寅
朝鮮民主主義人民共和国国務委員長 金正恩

表2【板門店宣言軍事分野合意書(抜粋、小項目は略)】

 南と北は朝鮮半島での軍事的な緊張状態を緩和し、信頼を構築することが恒久的で強固な平和を保障することにおいて必須的であるという共通の認識に基づき「朝鮮半島の平和と繁栄、統一のための板門店宣言」を軍事的に徹底して履行するために次のように包括的に合意した。

1. 南と北は地上と海上、空中をはじめとする全ての空間で軍事的緊張と衝突の根源となる、相手方に対する一切の敵対行為を全面中止することにした。

2. 南と北は非武装地帯を平和地帯に作っていくための実質的な軍事的対策を講じることにした。

3. 南と北は西海北方限界線一帯を平和水域に作り上げ、偶発的な軍事的衝突を防ぎ、安全な漁労活動を保障するための軍事的な対策を採ることにした。

4. 南と北は交流協力および接触・往来の活性化に必要な軍事的保障対策を講究することにした。

5. 南と北は相互軍事的信頼構築のための多様な措置を講究していくことにした。

6. この合意書は双方が署名し、各自が発効に必要な手続きを経て、その文本を交換する日から効力が発生する。

2018年9月19日

大韓民国国防部長官 宋永武(ソンヨンム)
朝鮮民主主義人民共和国人民武力相 朝鮮人民軍大将 努光鉄(ノグァンチョル)

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