2018年10月05日 1545号

【日本製鉄元徴用工裁判 韓国大法院(最高裁)審理再開 被害者の権利・尊厳回復が過去清算の道】

 日本の「過去清算」の中心的課題のひとつである強制連行・強制労働問題について、日本政府は一貫して1965年日韓条約ですべて解決済みと主張している。だが、2012年韓国大法院(最高裁)は日本製鉄(現新日鐵住金)と三菱重工に対し、元徴用工被害者の損害賠償請求権を認め、今年8月ついに審理が開始された。キャンドル革命によって発足した文在寅(ムンジェイン)政権下で、韓国の司法判断と日本の朝鮮植民地支配の責任がいま改めて問われている。

植民地支配問う裁判

 1990年代、日本の植民地支配の犠牲となった韓国の元「慰安婦」をはじめ日本の炭鉱や工場に強制連行された被害者たちは、日本政府や企業に対して謝罪と補償を求め数多くの裁判を起こしました。

 中でも1934年に設立された国策会社、日本製鉄株式会社は、侵略戦争を支えるために延べ1万人に及ぶと言われる労働者を強制連行した「戦犯」企業の代表格でした。当時の日鉄は、大阪市大正区にも工場を操業していました。ソウル在住で日鉄大阪工場に強制連行され、工場が空襲で破壊されたあと清津(チョンジン)製鉄所(現在の朝鮮民主主義人民共和国)に移動させられて敗戦と同時に放置された元徴用工の2人、呂運澤(ヨウンテク)さんと申千洙(シンチョンス)さんが新日鉄(その後合併して新日鐵住金)と日本政府を被告として大阪地裁に未払い賃金の返還、謝罪と補償を求めて提訴したのが1997年でした。

 日本の裁判では、過酷な強制労働の事実は認定したものの戦前の日鉄と現在の会社は別であるとする別会社論や時効などに加えて、日韓条約ですべての個人請求権は消滅したとの理由で2003年10月最高裁も請求を棄却。日本の司法での解決の道は閉ざされてしまいました。

キャンドル革命契機に

 しかしその後、韓国内で日鉄の被害者の調査が進み消息がつかめた約180人を代表する形で、日本で裁判提訴した2人を含めて5人が2005年2月、ソウル地方法院(地裁)に損害賠償を求める訴えを起こしました。

 韓国でも地裁・高裁では請求が棄却されましたが2012年5月、韓国の大法院は「日本の不法な支配による法律関係の内、大韓民国の憲法精神と両立し得ないものは、その効力が排除される」「請求権協定は日本の植民地支配の賠償を請求するための交渉ではなく」「請求権協定で個人請求権が消滅しなかったのはもちろん、大韓民国の外交保護権も放棄されなかった」と被害者の請求権を認める判断を示しました。

 この判決を受けて韓国内では多くの被害者が新たに裁判を起こし、下級審において被害者救済の判決も相次ぎました。翌2013年7月、新日鐵住金に被害者1人あたり1億ウォンの賠償を命じる差し戻し審の高裁判決が出され、会社側の上告により裁判は再び大法院で審理されることに。以降約5年間審理は塩漬け¥態が続いていました。

 ところがキャンドル革命によって誕生した文在寅政権が発足し、朴槿恵(パククネ)政権時代の不正を調査する「司法行政権乱用疑惑に関連する特別調査団」が出した報告書に驚くべき事実が記載されていました。裁判審理の遅延が、梁承泰(ヤンスンテ)元大法院長(最高裁長官)と日韓関係の悪化を懸念する外交部との裏取引によってもたらされていたことが暴露されたのです。当時政権中枢にいた金淇春(キムキチュン)元大統領秘書室長や朴槿恵前大統領自身が関与していた疑惑まで浮上。審理は大法院裁判官全員合議の大法廷で再開されることになりました。

権利回復なしに解決なし

 いま、朝鮮半島・東アジアの平和と非核化への道が揺るぎないものとなっています。しかし、強制連行問題については、日韓条約では経済協力の形で「解決」が図られ、2002年の日朝平壌(ピョンヤン)宣言でも日本は謝罪は表明したものの経済協力方式での解決を進めようとしました。これに対し、8月9日、韓国と日本、在日の16の市民団体は南北の交流などを通じて被害者の権利回復を実現することをめざす「強制動員問題解決と対日過去清算のための共同行動」をソウルで結成しました。

 発足した「共同行動」は早速、大法院の不正疑惑に関連して韓国政府(外交部)に対し、日韓条約では強制連行問題が解決せず被害者の権利回復もなされていないことを明らかにするよう求める「公開質問状」を送り、8月22日には大法院前で「大法院は強制動員被害者に公式謝罪し、『裁判取引』に関与した大法院判事は直ちに辞退せよ!」と抗議行動と記者会見。行動に参加した裁判原告の李春植(イチュンシク)さん(95歳)は「のどはつまり、涙が流れて言葉が出てこない。私が死ぬ前に早く解決すればうれしい」と訴えました。

 真の「過去清算」は、植民地主義克服の道筋を示した2012年大法院判決に則って、植民地支配の暴力による直接の被害者である元徴用工たちの権利と尊厳を回復させる以外にありません。

(呂さん、申さんの言葉は6面関連コラムにあります)

 
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