2018年10月05日 1545号

【砂上の楼閣「安倍一強」/自民党員もドン引きした総裁選/嘘つきに総理の資格はない】

 安倍晋三首相が3選を果たした自民党総裁選。とはいえ、地方票では55%の支持しか得られなかった。「圧勝」を公言していた安倍陣営はショックを受けているようだが、これは意外な結果でも何でもない。テレビ討論会などでの安倍のふるまいを観た人はこう感じたはずである。「こいつに総理大臣は任せられない」と。

論点ずらしに終始

 安倍陣営は今回、対立候補(石破茂・元幹事長)との論戦を徹底的に避ける戦術を採用した。政策論争をまともにすれば中身のなさがバレてしまうからだ。連中の不安は的中した。

 数少ない論戦の場、たとえばテレビ番組での討論会で安倍は醜態をさらしまくった。森友・加計学園問題やアベノミクスの成否、あるいは石破支持者への圧力など、痛いところを突かれるたびに安倍の目はキョロキョロ泳ぎ、司会者の制止を無視して質問の答えになっていないことをしゃべり続けた。

 論点ずらしのひどい事例をみていこう。経済政策をめぐる議論で安倍はこう言った。「先ほど石破氏から今の安倍政権が取っているのは『トリクルダウン』の政策だという趣旨の話をいただいた。私はそんなことは一度も言っていない」(9/14日本記者クラブでの公開討論会)

 トリクルダウンとは、富める者が富めば貧しい者にも自然と富が滴り落ちるという経済理論のこと。法政大の上西充子教授は「『トリクルダウン』というフレーズは言っていなくても、政策を進めてきたことは明らか。意図的に論点をずらすご飯論法です」(9/18毎日)と指摘する。

 こんなやりとりもあった。記者の「拉致問題を解決できるのは安倍政権だけだと言っていたが、現状はどうなっているのか」との質問に、安倍はこう答えた。「あの、拉致問題を解決できるのは安倍政権だけだと私が言ったことは、ございません。そういう発言をされた方が(被害者家族の中に)おられることは承知をしておりますが」

 ちょっと待て。安倍は「拉致問題は私の任期中に必ず解決する」と吹聴してきたではないか(実際には「対北朝鮮強硬論」を唱える以外に何もしなかったのだが…)。進展ゼロを批判されそうになると、期待値を上げたほうが悪いと居直る始末。まさに利用主義の権化というほかない。

議員票とのギャップ

 「理解力は小学5、6年生並み」。先日、米国で出版されたホワイトハウスの内幕本によると、トランプ大統領は側近からこう言われているという。そのトランプとの「親密な関係」が売りの安倍の理解力はどうなのか。同等かそれ以下ではないかと疑わせる一幕がテレビ討論会であった(9/17放映NEWS23)。

 司会者に「加計学園の理事長とゴルフや会食をくり返すことは適切ではない」と指摘されると、安倍はむきになって言い返した。「ゴルフに偏見をもっておられる。(ゴルフは)いまオリンピックの種目になっています。ゴルフはダメで、テニスや将棋ならいいのかということですよ」

 一体何をほざいているのか。国家公務員倫理規定は「利害関係者と共に遊技またはゴルフをすること」を禁じている。これは公平性を保つための措置であって、ゴルフというスポーツを害悪視しているからではない。その意味が理解できないのなら小学生からやり直せと言うほかない。意図的なはぐらかしなら不誠実極まりない。いずれにせよ、総理大臣失格だ。

 安倍陣営のベテラン議員は「テレビで討論会を見た支援者から、『安倍さんひど過ぎるね』という反応が寄せられ、これはマズいと思っていました」(9/21日刊ゲンダイ)と嘆く。地方票が伸びなかったのは一般の自民党員が安倍にドン引きしたせいではないかと言うのである。

 そんな安倍が国会議員票では8割超を獲得した。これが「安倍一強」なるものの正体である。本当に支持しているのはコアな安倍信者と権力に迎合する者だけなのに、選挙制度のマジックによって圧倒的支持があるかのように見せかけているにすぎない。

反対意見を排除

 選挙戦最終日の9月19日。安倍陣営が「最後の訴え」を行った東京・秋葉原で異様な光景が現出した。公共の場所であるJR秋葉原駅前ロータリー周辺を安倍スタッフが柵で囲い、内側には参加許可を示すシールを貼った支持者だけが入ることができるようにしたのである。

 それでも柵の外側には安倍政権批判のプラカードを掲げた市民が多数いた。安倍陣営は大量のノボリ旗を林立させ、これを覆い隠した。

 演説を聞きに来た埼玉県の男性は柵の中に入ろうとして阻止されたと憤る。「ふつうの街頭演説じゃない。国民にメッセージを伝えようとしているとは思えない」(9/22朝日)。また、今回の演説会への動員を求められた業界団体の幹部は、「サクラをたくさん集めて形だけ盛り上げて、演説して嬉しいのか」と批判する人もいたことを打ち明ける(9/16週刊朝日オンライン限定記事)。

 異論を排除し、恐怖支配で得た「数の力」で物事をごり押しする。そうしたアベ政治の本質を今回の総裁選は可視化したのである。

   *  *  *

 論戦を避けて勝ったくせに、安倍は自分の訴えが支持されたとして、自民党としての改憲案を臨時国会に提出しようとしている。これもまた、いつもの手口だ。嘘つき、卑劣、安倍晋三。こんな男をいつまでものさばらせておくわけにはいかない。    (M)



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