2018年10月12日 1546号

【地域丸ごとのサポートで貧困の克服へ/「生活困窮者自立支援の現場から考える」/“出かける福祉”、 非正規雇用撤廃へ】

 10月から生活保護の「生活扶助」支給基準が見直され、受給世帯の67%で減額となる。国連人権理事会専門家の「ますます多くの人びとを貧困に陥れる」との批判に、政府は「一方的な情報」と抗議する始末だ。一方、「生活保護の手前のセイフティーネットの充実」をめざしたはずの生活困窮者自立支援法(2015年施行)の事業は、就労支援が中心。それも「就労できそうな層」に限定した施策で、経済給付は「住居確保給付金」のみといった内容に骨抜きされた。

 そればかりか、就労訓練のひとつ「中間的就労」では、最低賃金以下で働かせてもよいとし、生活困窮者を劣悪な労働環境におく。「住居確保給付金」は対象が離職者に限定され、ネットカフェや脱法ハウスを拠り所に働く人には届かない。新たな相談窓口を設置というが、提供する内容が「就労支援」しかないため、生活困窮者の生活保護申請に新たなハードルを設け、“水際作戦”=申請の門前払いを担う役割を果たしかねない。

貧弱な施策、困難な実態

 9月21日都内で開かれた反貧困連続講座「生活困窮者自立支援の現場から考える」(主催―反貧困ネットワーク)では、貧弱な生活困窮者施策の下、現場のがんばりでフォローしている就労支援の先進例や、しかしその担い手が不安定雇用に苦しんでいる問題点などが報告された。

 大阪府豊中市で生活困窮者自立支援事業受託法人の相談員を務めていた服部貴子さん。「相談窓口は市直営・社会福祉協議会・一般社団法人の3つで、毎週3者で相談新規ケースを検討する。私たちは専門家をそろえて、市ではできない困難事例を扱う。就労支援は、支援者が相談者と一緒にハローワークへ行くのが一般的だろうが、そのルートでの成功例は少ない」と、就労に重要な役割を担う委託業務の実態を語る。

 「就労支援の大前提として、就労可能な状態の人か、どの程度かの見極めが必要。相談者が働きたいと思っていても、体調やメンタルな状態もあり、治療を優先することもある。企業なのか、デイケアや福祉事業所なのか、ふさわしい企業や施設につなげる。就労は収入だけではなく、社会とのつながりを構築して自己実現を図る大切な意味をもつ。だから、相談者が一番困っていること、なぜこうなったのか、今後どうしたいかを徹底して聞く。収入の目標、希望職種、フルタイムかパートか、就活費用等条件面や経済的見通しまで、一緒に考えている」

 離職から就労までは時間がかかる。早期就労には、生活困窮者の早期発掘へ各部署の横のつながりを作って対応することが大切だ。「国民健康保険、水道、市民税、子育て支援など、経済的に支払いが困難な世帯や支払いが滞納している世帯に着眼して、相談に来られるよう働きかけている。そして窓口職員が集まって会議をする。しかし、ここでも多くの職員が非正規のため、非正規職員や委託法人も参加した会議になる」

福祉現場、地域から声を

 NPO官製ワーキングプア研究会の上林陽治さんは「(自治体の)相談窓口の約8割が非正規という実態。他部署に異動できない専門職・資格職は正規職で採用しないため、重要な窓口相談業務が非正規職や委託に委ねられている」と危機感を抱く。

 2014年、千葉県銚子市で起きた、家賃滞納により強制立ち退きを迫られた末の無理心中事件に触れ、「この世帯は家賃ばかりか国保・年金も滞納しており、民生委員は貧困な状態を知っていた。生活保護の相談にも訪れていた。役所の様々な部署でつかめていたにもかかわらず、職務・専門性に閉じこもることによって問題が共有化されず後手に回った」と指摘。豊中市のような業務実践が大切だ。

 反貧困ネット世話人の白石孝さんは、韓国ソウル市の“市民が主役のまちづくり”を紹介した。「母娘3人の自殺(2014年、ソウル市松坡(ソンパ)区)を新自由主義による福祉の脆弱性ととらえ、“出かける福祉”に踏み出した。専門職と行政職が一軒ずつ訪問し、健康状態をチェックする。一般の食堂を“分かち合いの店”に広げる。子ども食堂、就労支援、図書館など取り組みは重層的だ。貧困解決は、住む所から始める。住宅公社は、家賃を払えない人がいたら就労支援につなげる。住宅部門にハローワークのケースワーカーが入っている。シルバー宅配所を作り、地域に配って歩く。仕事を起こし、家賃を払えるようにする。地域が丸ごとサポートする基本理念があるからできる」

 福祉の現場から、地域から、生活保護削減反対・生活困窮者自立支援制度批判の声をあげることが変革の一歩となる。



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