2018年10月12日 1546号

【不当判決相次ぐ原発裁判/「社会通念」持ち出し運転容認/安倍追随司法に説得力なし】

 福島第1原発事故後、一時は思い切った原発運転差し止めの判断も見られた日本の司法。だが今年に入ってからは運転容認の判断が相次ぐ。3・11前に回帰したかのような司法判断の背景にあるのは安倍政権追随と思考放棄だ。

火山リスクを無視

 9月25日、広島高裁で行われた伊方原発3号機の運転差し止め仮処分に対する異議審。三木昌之裁判長は四国電力の異議申し立てを認め、昨年12月、同じ広島高裁の別の裁判長が行った運転差し止めの仮処分命令を取り消した。

 昨年12月の仮処分命令がその影響を考慮すべきだとして差し止めの根拠とした阿蘇山(熊本県)の破局的噴火について、一転して想定を必要とせず、伊方原発の立地に不適切な点はないとの判断だ。

 決定は、阿蘇山噴火の可能性について「現在の知見では、その前駆現象を的確にとらえること」「具体的予防措置を事前にとること」はできないとした上で、毎日火山活動が続き、爆発的噴火もたびたび起こしている阿蘇山の噴火の発生頻度は著しく小さいと根拠もなく決めつけた。

 とりわけ許しがたいのは以下の部分だ。「国は、破局的噴火のような自然災害を想定した具体的対策は策定しておらず、これを策定しようとする動きがあるとも認められないが、国民の大多数はそのことを格別に問題にしていない」「破局的噴火によって生じるリスクはその発生の可能性が相応の根拠をもって示されない限り、原子力発電所の安全確保の上で自然災害として想定しなくても安全性に欠けるところはないとするのが、少なくとも現時点における我が国の社会通念であると認めるほかない」

 判決は、火山学者などの専門家でない原告住民側に火山発生の危険性の立証という不可能な難題を強いるものだ。国が対策を講じていないから破局的噴火の発生可能性が低いといわんばかりの判決理由は論理の体をなしていない。

 広島高裁に続き、大分地裁も9月28日、地元住民が行った運転差し止めの申し立てに対し「社会通念」を持ち出した。福島原発事故後に改定された原子力規制委員会の「新規制基準」に基づいて、伊方3号機の危険性は「社会通念上無視しうる程度まで管理されている」としたのだ。住民側は「極めて無反省。『社会通念』で逃げるなら法律など要らない」(河合弘之弁護団長)と厳しく批判する。

 火山リスクについて国民の大多数が問題にしていないとの指摘もきわめて不当だ。日本世論調査会の3月の世論調査では、原発を「すぐゼロ」「将来ゼロ」にすべきとの回答は75%に達する。市民の圧倒的多数は危険な原発の廃止を望んでいる。火山リスクを考慮せず、従来通り原発を運転してもよいとの「社会通念」などどこにも存在しない。


原発版「統治行為論」

 今年7月、大飯原発(福井県)3号機を巡って、名古屋高裁金沢支部は、原発そのものを法的に禁止・廃止することを「大いに可能」と認めながら「その当否を巡る判断は司法の役割を超えるものであり、政治的な判断に委ねられるべき事柄」として福井地裁が行った運転差し止めの仮処分を取り消した。安倍政権に追随するあまり、司法が原発について判断を避け、実体のない社会通念などを理由に逃げる傾向が強まっている。

 かつて、市民が自衛隊の違憲性を問うた訴訟で、司法が憲法9条と自衛隊との関係について「政府による統治行為であり司法判断になじまない」として判断回避の不当判決が続いた時期があった。直近の原発訴訟では、原発版「統治行為論」ともいうべき判断回避の論理が司法の主流を占めつつある。

 しかし、裁判所が政府の「統治行為」を理由に自衛隊の違憲判断を避け続けても、市民の自衛隊に対する異議申し立てが減ることはなかった。2015年に強行された戦争法の国会論議でも、政府はまともな説明ができず、自民党が推薦する参考人でさえ現状の戦争法を違憲と発言して政府与党を慌てさせた。法成立後も批判は続き、戦争法違憲訴訟は全国22地裁・原告総数7516人まで広がっている。

 原発も同じだ。裁判所は(1)実体のない社会通念(2)安全と証明されたわけではない規制基準への形式的な「適合」(3)地震や火山噴火がいつどこで起きると確実に証明できるものはないーを根拠に住民の要求を退けたに過ぎず、原発の安全性を証明できたわけではない。「専門家」=御用学者の安全論を根拠に、形式的にでも原発の「安全性」の証明を「可能」とした福島原発事故前とは根本的に異なっている。原発を巡る矛盾はますます深まり、反原発世論は揺るがない。「安倍追随司法」の弱点はここにこそある。

 こうした司法の弱点を突くと同時に国の原発推進政策を変えさせる闘いが必要だ。原発推進の経産省を官邸中枢に組み込んだ安倍政権打倒こそその重要な一歩となる。

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