2018年10月19日 1547号

【地域から介護のあり方を変えよう/尊厳ある“看取(みと)り”と認知症ケアのために/東京・足立区でつどい開く】

 介護保険制度が行き詰まり、しわ寄せは保険料引き上げや利用者負担増、事業者・施設職員の負担増という形で現場に及んでいる。9月29日東京・足立区で、介護をテーマに「市民の声で足立を変えよう」とつどいが開かれた。

 平和と民主主義をともにつくる会・東京と「尊厳ある暮らしを!」連絡会が共催した。

 介護従事者から、人権も人格もないがしろにされたまま終末期を迎える当事者のケアを通じて“尊厳”を取り戻す実践の報告があった。

 Sさんは足立区内の自宅を改修し、援助が必要な人を家族のようにともに過ごしながら支える住宅型有料老人ホームを運営している。医療面は病院や訪問看護ステーションと連携し、重度の認知症やがん末期の人も受け入れる。

 入居者Mさんは元小学校教員。人工透析を長い間受け、高いお金を払って大規模サ高住(サービス付き高齢者向け住宅)に入ったが、「ここは“終(つい)の棲家(すみか)”ではない」と落胆し、うつ状態になる。しかし、Sさんの施設に移ってからは「ずっと元気で、サッカー観戦に旅行にととてもアクティブ。安倍政権に反対し、『戦争は絶対やっちゃいけない』と繰り返し、土屋のりこ区議を『応援して支部を作るぞ』と張り切っていた」。

 昨年末、透析中に意識を失い、救急搬送された病院では暴れるからと全身拘束される。容態が急変し、かけつけたSさんに向かい「ペロッて舌を出しておどけた顔をした。それが最期の意思の疎通だった」。晩年も自分の思うように過ごしたいと願うMさんについて、以前いたサ高住は「あんな面倒くさい人を引き受けてくれてありがとう」。“尊厳”はここまで踏みにじられている。Sさんは「最期の瞬間、一緒にいられた。Mさんは今もどこかでペロッと舌を出してこっちを見ているのではないか」と話す。

 Sさん自身の母も脳腫瘍を患い、認知症と同じ症状を抱えている。「病院では、母が歩き回るのは困ると体じゅうに鈴を付けられた。夜中トイレに行くときも動くたびに鈴が鳴り、“うるせぇ”の声が飛び交う」。それでも、周りの人に何かしてもらって「ありがとう」と言っている母は一番幸せなのではないか。Sさんはそう考えている。

ていねいなケアのとりくみも

 がん末期の女性入居者は、便秘がひどく訪問看護師が無理やり排便させようとしたため、大混乱。「訪問看護師は交代してもらった。女性はスタッフが来ると寝床のスペースを空けて『座って』と促し、『私は何ともないよ』『きょうの服すてきね』といっぱい話し、いつもにこにこしていた」。家族は「認知症になって2年。母親として接するのはもう不可能だと思っていた。ここでの様子を見て、余命2か月とはいえこの時間を過ごせていることがどれだけありがたいか」と喜んだという。

 小規模多機能型居宅介護施設からは、若年性認知症のTさんとの関わりについて。50代で記憶障害が現れ、暴言・暴力が頻繁になって病院と施設を行ったり来たりした。妻によると、退院の際は廃人のようだったTさんが自宅では落ち着いて入浴後にはビールを飲んでくつろいでいたものの、翌朝暴力が再発しすぐ病院へ。しかし、妻は「限界と同時に、一日一緒に過ごして笑顔や落ち着きに触れ、達成感もあった」。施設スタッフも「本人らしさがたくさん輝いていた。1対1の関わりや泊まり、突然のSOSなど小規模だからできることがたくさんある一方、他の利用者もいるため難しさも感じた」と振り返っている。

 小規模事業所では、尊厳ある暮らしと現実との壁に悩みながらも、一人ひとりに対するていねいなケアの試みが重ねられている。

地域、現場からつながろう

 足立区は新たな介護計画を策定した。「住み慣れた地域で安心して暮らし続けられるよう、区民・地域・事業者・団体・行政等が役割に応じた主体的な活動、『協創』により、医療、介護、予防、住まい・生活支援を一体的に提供する地域包括ケアシステムの構築」と基本方針を示すが、看取りの取り組みや小規模事業所を支援する独自施策はない。

 土屋区議は、区内の介護従事者や「尊厳ある暮らしを!」連絡会のメンバーとともに「看取り期まで対応する小規模事業所への支援」を求めて行政請願を行っている。「ていねいなケアをめざす上で、自治体への要請は重要。真剣に受けとめる職員もいて、変えていけると実感している」と語る。

 地域から、現場から、利用者・事業者・介護労働者がつながり、介護保険制度の抜本的改革を迫っていこう。





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