2018年10月19日 1547号

【コラム見・聞・感/自民総裁選 ある地方党員の声】

 「安倍政治に鉄槌が下ってすっきりしています」。そんな短いメールが筆者の携帯電話に入ったのは昨年7月3日のことだ。差出人は北海道のある自治体首長(当時)。現役自民党員だ。半世紀近い政治家人生のほぼすべてを自民党に捧げてきた。

 その前日、東京都議選で、自民党は小池百合子都知事率いる地域政党「都民ファースト」に惨敗していた。議席数は共産党よりわずか1議席多いだけ。もちろん過去最低だ。

 「安倍さんは人の話を聞かず、自分のやりたいことだけ。地方がこんなに衰退しているのに見向きもしない。アベノミクスの恩恵なんてここでは聞いたことがない」と手厳しい。「保守本流は安倍さんではなく私だ」。地方の自民党員はそんな自負心も持つ。

 この自民党員とは、地元のJR日高本線を存続させる活動の中で親しくなった。苫小牧(とまこまい)と様似(さまに)を結ぶ日高本線は、2015年1月、路盤(線路の地盤)が高波で流されて以来3年も運休が続く。全長は146・5`もあり、新幹線建設が進む博多〜長崎間の153・9`に匹敵する。改めて北海道は広いと思う。

 地域の問題を解決するための活動を通じて、同じ課題を認識している保守系の人たちに出会うことも増えた。もちろん基地や原発、改憲反対など筆者の政治的立場上譲れないものはある。だが立場の異なる保守系の人たちと対話すると毎回新たな発見がある。

 60年以上にわたる自民党の長期政権を支えてきたのが彼ら献身的自民党員≠ナあることは事実だ。地域のために汗をかいているのが誰か地元住民はよく知っている。そうした自民党員に出会うと、目指す方向性は違っても政治活動の基本は同じなのだと再認識させられる。

 9月20日に投開票された自民党総裁選で、安倍首相に反旗を翻した石破茂元幹事長が45%の党員票を獲得した。メディアはこの結果を「想定外の善戦」と評したが筆者はそうは思わない。地元のために汗もかかず、女性やマイノリティのみならず普通の人びとに対して自民党という高下駄を履いて見下す「安倍信者」。そんな連中のヨイショに有頂天になり、地べたの自民党員を切り捨てたことこそ安倍苦戦の原因だ。地方にいるとよく見える。「安倍信者」らは自民党にたかるシロアリであり、彼らが巣くう安倍政権がいずれ内部から朽ちていくことは間違いない。

 地元経済界の中心でもある北海道商工会議所連合会が、JR北海道の路線維持を掲げて活動していることを、彼らの名誉のため最後に付記しておきたい。(水樹平和)
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