2018年10月26日 1548号

【沖縄知事選/安倍政権の支配に抗した民意/勝手はさせない 基地は認めない】

 辺野古新基地建設を強行する安倍政権が総力を挙げて勝利をめざした沖縄知事選挙。だが思惑は崩れ、基地反対を掲げた玉城(たまき)デニーが歴代最高得票で当選した。「辺野古基地を造らせないオール沖縄会議(オール沖縄)」の勢力は2月の名護市をはじめ首長選挙で敗戦が続いていただけに、この勝利の意味は大きい。勝因は何か。沖縄の民意をどう受け止めるべきか。改めて確認しよう。

票差は中高年層

 「オール沖縄」候補玉城デニーは政府丸抱えの佐喜真淳に8万票の差をつけた。この票差はどこからうまれたのか。票の年代別分布を推計してみるとその特徴がわかる。いくつかの仮定の下に推計してみた(図1)。





 今回の知事選の年代別投票率はまだ公表されていないため、過去の実績(図2)から、投票率を推定する。10代は昨年の衆院選の投票率、それ以外は前回知事選の投票率を使い、投票総数に合うよう一律補正した。それぞれの年代層がどちらに投票したのかは、出口調査(図3、沖縄タイムス他)を使った。

 図1を見てほしい。これまで、「若者は佐喜真支持」と言われていた。たしかに10〜20代では佐喜真がリードしたが、30代では玉城が上回る。30代までの総投票数約20万票、差は千票程度だ。特に30代では「県民投票」運動をになったグループなどの行動が玉城支持票を獲得したといえる。



 他の年代はどうか。50代は逆の傾向を見せているが、40代〜60代合わせると差は4万5千票、70代以上で3万5千票の差が出ている。8万票は中高年齢層の票差の結果であることがわかる。

反基地と経済は対立せず

 中高年齢層の選択に顕著な差を生じさせたのは何か。選挙争点を振り返ってみよう。

 マスコミは「基地反対」か「経済優先」かの選択と報道した。事前調査(琉球新報他9/24)では、「普天間移設・基地問題」54・4%、「経済振興・雇用」22・1%。「基地」を重要視していることがわかる。出口調査(沖縄タイムス他)でも「基地問題」46%、「経済活性化」34%と基地問題が重視されている。

 安倍政権は「いくら基地に反対しても止められない。政府の言うことを聞いて、経済支援を受けろ」と「基地反対」ではなく「経済優先」の選択を迫ってきた。50代で票が逆転しているのは政権の圧力が効いたと読めるが、60代以上には影響を及ぼせなかった。県民は「基地」を優先し、玉城を選択したといえる。

 だが、本当に「基地反対」か「経済優先」かの選択だったのか。「基地」と「経済」をことさら対立させるのは安倍政権の策略だ。翁長が語った「基地は沖縄経済の阻害物」、玉城の「誇りある豊かさ」は「基地反対」と「経済振興」は両立するというものだ。地域経済の自立をめざすこの主張は、政府への依存を維持させるには目障りだ。政権はできもしない交付金上乗せに過剰期待を抱かせることに徹し、「基地反対」は「貧困維持」と描いてみせた。

 この虚構により「若者は基地より経済」などという誤った対立がまことしやかに宣伝された。虚構は、若者の未来を心配する中高齢者にも影響を与える。安倍政権が全力で介入した宜野湾市長選(16年)に始まる「オール沖縄」切り崩しの定番となった。

 だが県民は基地経済からの脱却を願っている。昨年の世論調査(沖縄タイムス他)で、米軍基地は沖縄経済の発展にとって「マイナス」54%、「プラス」32%だった。「基地反対」と「経済振興」は対立しない。知事選で選択された「基地」とは、安倍政権の支配に屈するのか、地方自治を守るのかの意味だったのだ。

県民を愚弄するな

 選挙応援を手控えていた翁長樹子(おながみきこ)夫人が県民大会で訴えた言葉が、それを象徴している。「日本政府はあまりにひどい。権力を全て行使し、沖縄県民を愚弄(ぐろう)し、民意を押しつぶそうとする。負けるわけにはいかない」。官房長官、自民党幹事長が何度も沖縄入りし、企業、業界団体を締めあげた。「期日前投票」用紙の写真までとらせた。

 厚労相は保育園に動員をかけた集会で佐喜真とともに登壇し支持を訴えた。投票の「実績調査票」提出まで求めた。「投票の自由」を脅かす圧力だ。公選法が禁じる地位利用を公務員に強いるものだ。

 その一方で、官房長官菅は知事権限とは無関係な「携帯電話代引き下げ」を延々と語る。人寄せパンダ小泉進次郎は「基地」には触れず、安室奈美恵や宮里藍の引退をネタに使い、ご当地産品でお茶を濁す。東京都知事小池まで来沖。県民の怒りは増幅した。

 安倍政権は「県民に寄り添う」と言いながら、度重なる米軍の事故や事件にも、全く動かなかった。「粛々と進める」と基地反対の民意を踏みつけてきた菅は、街頭演説でも、翁長の県民葬の場でも「うそつき、帰れ」と罵声を浴びた。県民が「愚弄された」と感じるのは当たり前だ。

沖縄のことは沖縄が決める

 出口調査では、無党派層の70%以上が玉城に投票した(琉球新報調査)。しかも、公明党支持者では27%、自民党支持者でも24%は玉城に投票している。玉城支持政党票で相手候補に入れた票は数%に過ぎなかった。

 徹底した組織的圧力をかけた自公維新、安倍政権は、沖縄県民にあきらめを押し付けることはできず、逆に怒りをかき立て負けたのだ。

 沖縄のことは沖縄が決める。地方自治をないがしろにはできないことを、沖縄県民は示した。安倍政権の好き勝手はさせない。これが沖縄県知事選が発したメッセージだ。

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