2018年11月02日 1549号

【東電刑事裁判 被告人質問/武藤・武黒両元副社長/ウソと否定連発 墓穴掘る/有罪判決へ署名広げよう】

 福島原発事故の刑事責任を問う東京電力旧経営陣3人の裁判は被告人質問に入り、10月16、17日に元副社長の武藤栄被告、19日に元副社長の武黒(たけくろ)一郎被告に対する質問が行われた。

 16日、東京地裁104号法廷。武藤被告は冒頭、「多くの方々にご迷惑をおかけし、当事者として誠に申し訳ございません」と頭を下げた。だが、しおらしかったのはここまで。その後は「知らない」「聞いていない」を連発し、謝罪が口先だけでしかないことをさらけ出した。

 国の地震調査研究推進本部は02年、福島沖でも大津波地震が発生し得るとする「長期評価」を公表。東電の土木調査グループは08年、長期評価に基づいて算出された「最大津波高15・7b」の予測結果を得た。最大の争点は、3被告がこうした評価・予測を適切に受けとめ、被害回避策を講じていたか、だ。

 武藤被告は長期評価について「『信頼性はない』と担当者が説明していた。新しい知見が出たのではなく、根拠もない。私も『信頼性はない。工学的に設計に取り込むことはできない』と思った」と一蹴した。津波対策が議題に上った「中越沖地震対応打ち合わせ」(通称「御前会議」)については「柏崎刈羽原発の復旧状況などを情報共有する場で、何かを決める会議ではなかった」と言い逃れ。

 08年7月31日、武藤被告は、津波対策をすぐには実施せず、土木学会に検討を依頼する“ちゃぶ台返し”の指示を行う。これについても「津波の知見をお持ちの専門家の意見を聞き、答えが出たら対策工事をするというのは適正な手続き」と開き直り、「先送りと言われるのは大変に心外であります」と力んでみせた。

 中越沖地震対策センター所長だった元幹部が、武藤被告が「津波水位の数値を下げられないか」と求めたと供述していることを問われると、声を荒らげて「あり得ない。私が『下げろ』など言うわけがない。本当にそんな供述をしたのか」と何度も聞き返した。

 証拠として採用済みの数々の会議資料や説明資料、部下とのメールについても「読んでいない」「記憶にない」と繰り返す武藤被告に、最後は裁判長までが「08年2月の御前会議資料に4として『津波への確実な対応』とある。気づいても不思議ではない」と問いただす。それでも「時間も限られていたので、どこまで詳しく見たかよく分かりません」と言い張った。

 公判後、記者会見した被害者参加代理人の海渡雄一弁護士は「証人調べで明らかに認められる客観的事実を武藤さんはあまりにも多く否定しすぎた。墓穴を掘ったのではないか。裁判所から見ると非常に心証が悪い」と指摘した。

 17日の報告集会で、福島原発刑事訴訟支援団の佐藤和良団長は「きのう今日と罪を逃れるための自己保身、ウソつきまくり、東電そして原子力ムラの組織防衛の証言が続いた。こじ開けた扉を有罪判決を結びつけるために、頑張っていこう」と訴えた。

 10月30、31日には武黒被告への質問の続きと元会長・勝俣恒久被告への質問が行われる(傍聴抽選―午前9時)。

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